裏腹
「ま、まあ…。仕方がない…です…よね?」
他に言いようがないと思うんだけど。
それでも一応、理由くらいは聞いておいたほうが良いのかな?
急な仕事って言ってるくらいだから、
何らかの問題があったのは間違いないはずなのよ。
…って、あれ?
でも、そもそも今は休暇中だから仕事なんてしなくていいはずよね?
…と言うか?
休暇の条件としてすでに半分くらい仕事をしてるようなものだから。
本業に復帰しなければいけない状況っていうのはそれなりの問題があったとしか思えないわ。
「もしかして何か問題でもあったんですか?」
「…それがね。私が休暇をとる為に受付の仕事を代わってもらった子が風邪で倒れたらしくて、今日は仕事に来れないみたいなの。そのせいで人手が足りないっていうつまらない理由で呼び出されちゃったのよ。」
…えっと?
それってつまらない理由なの?
だけどそれも条件の一つだったっけ?
どうしても人手が足りない場合には仕事に復帰すること。
それも休暇の条件の一つだった気がするわ。
そのせいで美咲さんは仕事を断ることが出来なかったみたい。
「8時から仕事に出ないといけないから、そのあとは夕方の5時まで乃絵瑠ちゃんに会えないのよ。」
…うぅ~ん。
8時から17時って結構長いわね。
受付の仕事の間は食事を作る時間もないでしょうし、
私の食事の用意も出来ないんじゃないかな?
もっと言うなら私と一緒に昼食を食べられるかどうかも分からない感じよね?
場合によっては仕事が終わる夕方5時まで、
私に会う時間もないかもしれないってことよね?
その辺りに絶望を感じてるのかもしれないけれど。
逆に言えば、
それだけと言えばそれだけのことでもあるのよ。
「たった半日じゃないですか。」
私にとってはそうなんだけど。
美咲さんにとってはそうじゃないみたい。
「乃絵瑠ちゃんといられる期間は限られてるのに…半日も離れるなんてもったいないわ!」
…いやいやいやいや。
もったいないって、
なんとなく嫌な言い方よね?
もうちょっと違う言い方があるんじゃないかな?
なんて考えてる間にも、
時間は刻一刻と迫ろうとしているのよ。
…あと40分くらいで仕事に行くのよね?
時計の針は7時15分を指してる。
…と言うことは?
そのあとは自由っ!!
美咲さんの束縛からついに解放される瞬間が来たのよ。
その事実に気づいて僅かに心を弾ませてしまったことで、
私の表情を見ていた美咲さんは再び涙を流してしまったの。
「しくしく…。乃絵瑠ちゃんは私と離れるのがそんなに嬉しいの?」
…う、あ、っ!?
しまった〜〜〜!!
心の中の喜びと開放感が美咲さんに筒抜けになっていることに気付いた瞬間に大慌てて頭を下げることにしたわ。
「ご、ごめんなさい…っ!」
ホンの一瞬だけ浮かれただけの私の心を即座に見抜いた美咲さんの鋭さには驚いてしまうけれど。
ここはひとまず美咲さんを応援しておくことべきよね?
「真面目にお仕事をしていたら時間なんてあっという間に過ぎると思います。だからすぐにまた会えますよ!私のことは気にせずに、お仕事を頑張ってくださいっ!」
わりと全力で応援してみたんだけど。
「言葉と心が裏腹よ?嘘をついてもすぐに分かるのよ。乃絵瑠ちゃん…。」
…ぁぅぅぅ。
やっぱり上辺だけの応援だと、
美咲さんには通じないみたい。
そのことにも気付かされてしまって、
言葉をなくして黙り込んでしまったわ。
…うぅ~ん。
どうしよう?
何をどう言っても話をまとめられる自信なんてないのよ。
だけど。
そんな私を責めずに、
美咲さんは優しく微笑んでくれていたの。
「ふふっ。そうやって真剣に私のことを考えてくれるだけで十分よ♪」
一瞬にして涙を止めた美咲さんは笑顔で私と向き合ってる。
「…とまあ、そういうわけだから、今日は一人で頑張ってね~♪」
さっきまでの涙はどこへ行ったのか、
あっさりと笑顔を取り戻していたのよ。




