良いことばかりじゃない
「だからかしら?乃絵瑠ちゃんや奈々香のように純粋な子を見ているとね。そっと手を差し延べてあげたくなるのよ♪」
…ええ~?
純粋ってなに?
一途で綺麗な心ってこと?
あるいは汚れのない無邪気な心ってこと?
もしくは真面目で真っ直ぐな心ってこと?
よく分からないけれど。
そもそも自分では分からないわよね?
だけど美咲さんはそういう感じの心の持ち主を捜してるみたい。
「本当にね。乃絵瑠ちゃんみたいな可愛い娘が傍にいてくれると心が安らぐの♪欲望と下心にまみれた人達との日々を過ごしているせいで、乃絵瑠ちゃんのような子達の貴重さが身に染みて分かるものなのよ♪」
…ふ〜ん。
欲望と下心ね~。
自分に対して下心を持たないとか?
あるいは悪意を持たない存在とか?
そういう人が美咲さんにとっては心の拠り所なのね。
「もちろん、時には紳士的な男性もちゃんといるけどね♪」
…ああ、うん。
まあ、ね。
そういう人もいて当然だと思う。
…というか。
そういう人がいないと、
全ての男性が警戒の対象になってしまうわよね?
だけどそういった男性は小数派だとも思う。
私には見分けられないけれど。
なかなか見つけられないでしょうね~。
だからこそ男性よりも女性とのお付き合いが自然と多くなってしまったのかも?
「もちろん、女性の中にも異端はいるわよ♪」
…ああ、やっぱり、いるんだ。
欲望にまみれた人間とか?
あるいは性格の歪んだ人間ってことよね?
それは男性に限らず、女性の中にもいるみたい。
…うぅ~ん。
相手の心の内を知っていながら、
相手に合わせて会話を行う精神的疲労と苦痛に堪えるのって大変よね?
絶対に表情や態度で不快感を示さないようにするのなんて普通なら無理だと思うわ。
…だからかな?
だから美咲さんは表の顔を作り出したのかな?
完璧な笑顔で完璧な応対を心掛ける表の顔は、
美咲さんにとって一種の自己防衛反応なのかもしれないわ。
「ふふっ。知らなくても良いことを知るっていうことがどれだけ面倒かなんて、乃絵瑠ちゃんには分からないかも知れないわね~♪」
…うん。
確かに分からない。
相手の考えを知れる能力が便利かどうかなんて、
実際に能力を持たない限り分からないから。
だから推測するしかないのよ。
…良いことばかりじゃないのね~。
相手の心を知りたいなんて、
誰もが一度は願う幻想だけど。
実際にそんな能力があると、
日々の生活に支障をきたすってことを知ってしまったわ。
…美咲さんも結構苦労してるのね。
なんて思った瞬間に、
美咲さんは最大級の微笑みを見せたのよ。
「そうなのよ~♪苦労してるの。だ・か・ら・っ♪乃絵瑠ちゃんの体で癒して欲しいな~なんて思うんだけどっ♪」
…はあっ!?
なんでそうなるのっ!!
「却下ですっ!!!」
思わずテーブルを全力で叩いてしまったことで、
『ガシャンッ!!』と大きな音を立ててしまったけれど。
それでも私は呆れ顔でぶちギレてしまったのよ。
「せっかく!美咲さんのことを見直しかけてたのに!結局そこですかっ!?」
欲望にまみれているのは美咲自身も同じよね!?
「もっと普通に出来ないんですか!?」
本気で願いたい部分なんだけど。
美咲さんは妖しく微笑むばかりだったわ。
「うふふっ。可愛いわね~♪」
…な・に・が!?
「照れたり怒ったり、笑ったり怯えたり、真剣な表情で話を聞いてくれたり、そういう乃絵瑠ちゃんの行動の一つ一つが私の心を癒してくれるのよ♪」
…ええ〜〜〜?
別に好きでしてるわけじゃないんだけど。
それでも美咲さんにとっては癒しになってるみたい。
「大好きよ♪乃絵瑠ちゃん♪」
…ぅぅっ!!
美咲さんの告白に戸惑ってしまったわ。
だけど今の言葉には恐怖が感じられなくて、
ただただ複雑な想いを感じてしまったのよ。
…もう無理。
美咲さんが分からない。
怖いの?
怖くないの?
それすらももう分からなくなっているの。
…どう接すれば正解なの?
美咲さんが精神的な苦痛の中で生きてることを知ってしまったから、
強く言い返せなくなってしまったのよ。
まだまだ美咲さんの苦労は分からないけどね。
それでも感情に任せて激怒することなんて、
今はもう出来なくなっていたわ。




