不干渉
「はっきりとしたことは言えませんが、その人物こそが最強の魔術師と言っても良いと思っています。」
…ん?
最強の魔術師だと?
それほどの称号を冠する人物がいるのか?
「名前は言えませんが、その人物と出会えたことが僕達が動き出した最大のきっかけになります。」
………。
「念のために聞くが、それは常盤成美のことか?」
常盤沙織と美袋翔子の力を受け継ぎ、
天城総魔の魔力も受け継ぐ常盤成美こそが最強の魔術師だと推測していたのだが。
竜崎は首を左右に振っていた。
「いえ、残念ながら違います。彼女ではありません。彼女は自身の特性によって不可能を可能に変えているに過ぎませんから。」
…常盤成美の特性だと?
俺達が知らない能力によって、
二つの特性を同時に扱うことが出来るというのか?
「本人の成長のためにあえて詳細は伏せておきますが、彼女は確かに強力な魔術師ではあると思います。ですがただそれだけです。その程度で最強にはなりえません。」
常盤成美ではなかったらしい。
「彼女程度の実力ではウィッチクイーンにすら及ばないと思います。」
…ふむ。
はっきりと宣言する竜崎に嘘やごまかしは感じられない。
おそらく本当に関係ないのだろう。
…だとすると、だ。
これまでの出来事からの推論によって、
おそらくそうだろうと考えていた俺の考えは否定されてしまったことになる。
…他に候補などいるのか?
思い当たる人物はいない。
…いや。
一人だけいたな。
「あくまでも確認だが、矢島美咲ではないだろうな?」
「「………。」」
質問を繰り返した瞬間に。
竜崎だけではなく、
ウィッチクイーンまでもが戸惑うような表情で口を閉ざしていた。
…まさか、当たりだったのか?
二人の雰囲気から正解を引き当てたのかと思ったのだが、
どうやらそういうことでもなかったらしい。
「…いえ、彼女ではありません。彼女に関しては僕達も不干渉を決めていますので、こちらから関わるつもりは一切ありません。」
…ほう、不干渉か。
やはり矢島美咲だけは彼らも扱いかねている様子だな。
「言いたくないのなら詳しくは聞かないが、彼女と関わったことはあるのか?」
「…ええ、まあ。敵対はしませんでしたが、竜の牙の内乱の引き金を引いたのは彼女だと思ってもらって構いません。」
…ほう、竜の牙とも関わりがあったのか。
どうにも掴みどころのない人物だが、
まさか竜の牙を分裂させるほどの影響力まであるとはな。
「彼女は全てを把握して動いていたようです。僕や貴方の知らない事実まで、全ての情報を知っているそぶりでした。」
…全てだと?
「まさか…っ!?」
「はい。第3の秘宝の在りかも知っているようです。」
…ちっ!
全ての情報を秘匿していたつもりだったが、
あの女だけは気づいていたのか!
「…と言っても、彼女は不用意に情報を漏らすような人物ではありませんので、第3の秘宝の在りかに関しては何も聞いていません。」
…聞いていないだと?
ならばまだ焦る必要はないのかもしれないな。
…とは言え。
今の俺の反応で秘宝が存在することは確信されてしまったのだろう。
ここまでの会話が誘導尋問だった可能性もあるが、
矢島美咲なら知っていても不思議ではない。
こうなるともうどちらにしても情報の封鎖は不可能だ。
「秘宝に関してはどうでもいい。それよりも今回の件に矢島美咲は本当に関係ないのか?」
「ええ、無関係です。最強の魔術師に関しては御堂龍馬や栗原薫でもありません。もっと別の存在です。今の段階で言えることはそれだけで、それ以上のことは言えません。」
俺に思い浮かぶ全ての可能性を否定してから、
竜崎はそれ以上の質問を拒絶してしまった。
その結果として質問を打ち切られたことで何も聞けなくなってしまったのだが、
竜崎は微笑みながら言葉を付け足してくれた。
「あの人物は共和国にとっても重要な戦力だと思います。それだけは言い切れます。」
自信をもって宣言してから、
切り札に関する話を打ち切ってしまったのだ。




