鬼門
《サイド:長野淳弥》
…相変わらず慶太にだけは素直だよな。
いつ見ても姉貴の自分勝手ぶりには呆れるばかりだ。
「まあ、今回は見逃してあげるけれど、また同じことをしたら次は折檻よ!!良いわね?淳弥っ!」
…ああ、もう何でもいいや。
好きにしてくれ。
慶太に対する態度と俺に対する態度の差には不満を感じるが。
姉に逆らえない性格に矯正されてしまっていることで文句なんて言えるわけもないからな。
今は言われるがままに大人しく耐え忍ぶしかない。
…はあ。
やっぱり姉貴は鬼門だな。
俺の生涯において、
もっとも苦手な存在といえるのが姉貴だ。
その天敵が目の前にいるだけで、
果てしなく大きな絶望を感じてしまう。
…これだから強気な女は苦手なんだ。
姉貴にしても。
里沙にしても。
俺に高圧的な態度を示す存在だからな。
嫌でも激しい疲労を感じてしまう。
…マジで疲れる。
本気で嘆きたくなってしまったことで、
自然と雪に視線が向いてしまっていた。
穏やかな微笑みを浮かべながら静かに様子を見守る雪の優しさに癒しを求めてしまうからだ。
…やっぱり雪だけが俺の心の支えだな。
姉貴とは真逆の性格の雪は、
俺にとって天使にも等しい存在だと思っている。
…だが、まあ、それでも翔子の笑顔が一番だけどな。
もしももう一度あの笑顔が見れるなら。
あるいは翔子の傍にいられるのなら。
他の何を犠牲にしても良いと思えるほど素直に翔子を愛していた。
…翔子がいない今となっては俺に残された希望は雪だけか。
1番がいないから2番という言い方はどうかと思うが、
俺にとって安らぎを感じられる数少ない存在だからな。
…どうしても雪だけは特別な存在に思えてしまう。
そんなふうに考える俺の視線を感じたのか、
雪が歩み寄ってきてくれたんだ。




