何も言わなかった
…竜崎慶太か。
新堂と別れてからも馬車に向かって歩みを進めていく。
…全てを聞けるのだろうか?
本来であれば竜の牙の頂点に立つはずの竜崎一族が反乱を起こした理由。
そして今は亡き天城総魔が遺した5つの希望に関して知っている理由。
それらを知ることが出来るのだろうか?
交渉の内容がどうなるのかは分からないが、
今は国境に向かうしかないのだろう。
「出発しようか。」
「はい。」
馬車に乗り込んで長野君に話しかけると、
迷うことなく頷いてくれた。
「急いで国境に向かいます。」
素直に指示に従って馬車を走らせる長野君は、
国境警備隊の基地を離れて国境を目指してくれている。
…だが、問題はここからだな。
ひとまず今は敵ではないと信じて話を進めるしかないだろう。
覚悟を決めて長野君に視線を向けてみる。
先程、気付いた推測が真実かどうかを確かめる為に。
そして今後の交渉を有利に進める為に。
話しかけてみることにしたのだ。
「さて、長野君。」
「…何でしょうか?」
静かに話しかけた俺の雰囲気を察したのだろう。
長野君は緊張しているかのような様子を見せている。
だから、だろうな。
「「「………。」」」
芹澤君や矢野君も戸惑っている様子だ。
そして芹澤啓輔君の視線も集まる中で、
本格的に問い掛けることにした。
「単刀直入に聞かせてもらおう。長野君…きみは反乱軍の一員だな?」
「……!?」
突然の質問に動揺しているのが感じられた。
馬車を走らせるために正面を向いている長野君は俺に背中を向けている為に表情までは見れないが、
ここは話を逸らさせないために追い撃ちをかけるべきだろう。
「ウィッチクイーンとは姉弟だな?」
「…っ!!!」
真実を追求した瞬間に、
長野君の動揺ははっきりと背中に表れていた。
小刻みに揺れる背中を見ただけで確信出来たのだ。
「…やはりそうか。」
長野君の反応は明らかに真実を物語っている。
もしも何も知らなければ、
もしも何も関わりがなければ今の反応は有り得ないからだ。
ただ疑問だけを感じて問い返せば良い。
反乱軍とは何か?
ウィッチクイーンとは何か?とな。
何も知らなければ動揺する必要などないのだ。
…だが。
長野君は何も言わなかった。
疑問を言葉にすることさえ出来ずに、
ただ必死に動揺を抑え込もうと努力していたのだ。
その行動が見れただけで俺には十分だった。




