失踪
《サイド:竜崎慶太》
…ふう。
困ったね。
どういう事情があるのかはわからないけれど。
本気で戦うつもりがないらしい。
…だとすれば直貴は敵ではないはずだ。
少なくとも僕達が倒すべき本当の敵ではないと思う。
僕と紗耶香の幸せを願ってくれているからね。
詳しい事情はともかく、
直貴の意志を確認したことで味方だと信じることにした。
「直貴。僕はきみとは戦わない。きみを信じることにしたからね。だからいつか協力し合える日が来ることも信じているよ。」
ルーンを解除して戦闘を放棄する。
そんな僕の言葉を聞いていた直貴は微笑みを浮かべているように見えた。
「甘い男だな、慶太。相変わらず…甘い男だ。」
…かもしれないね。
敵対している今でも直貴を信じたいと思ってしまうんだ。
何を言われても仕方がないとも思う。
「だが…だからこそ、お前らしいと言うべきかもしれないな。」
直貴がゆっくりと歩きだす。
そして一度も振り返ることなく歩みを進めて距離をとった直貴は、
最後に一言だけ僕達に告げてくれたんだ。
「…また会おう。」
別れの言葉を残して姿を消してしまった。
竜の牙と反乱軍の戦いの中に紛れ込んで失踪してしまったんだ。
気が付けば弟の直也もすでに戦場から姿を消している。
長野兄弟が消えた戦場。
二人の生死は不明なまま、
残る竜の牙の壊滅の為に共和国軍が動き出そうとしていた。
「残党を一掃しろっ!!!」
楠木さんの指示によって一斉に動き出す国境警備隊。
その突撃とほぼ同時に国境南部からも陸軍が迫ろうとしている。
「進めーーっ!!!」
陸軍を指揮する新堂輝彦の指示を受けて一斉に動き出す軍の魔術師達。
前後から攻め寄る共和国軍の圧倒的な勢いに飲み込まれた竜の牙は、
成す術もないまま全滅してしまったようだ。
…結局。
最期の瞬間まで僕達には手を出さないまま、
竜谷元成が率いていた竜の牙の部隊はミッドガルムを目前とした国境手前において全滅してしまった。




