追撃開始
地下の霊安室をあとにして教会の外に出た俺は、
入口に待機させていた馬車に歩み寄ることにした。
「…待たせたな。」
「いえ。それは良いんですが…それよりも弔いはもう良いのですか?」
「ああ。」
俺を心配してくれる長野君に一度だけ頷いておく。
「慶一郎との別れは十分に済ませたからな。」
これ以上ここに留まっていても意味はない。
「それよりも今は竜谷元成を始末することが優先だ。」
話を切り上げて馬車に乗り込む。
馬車の中に芹澤里沙君と矢野百花君と芹澤啓輔君の3人がいることを確認してから、
業者台に座っている長野君の背後に座り込んだ。
「すまないが馬車を頼む。出来ることなら俺が直接走らせたいところだが、あまり長時間の行動は体に負担がかかるものでな。」
「いえいえ。この程度のことでしたら任せてください。」
何をするにしても思うように動かない体を恨めしく思いながら謝罪してみると、
長野君は気にした様子もないまま笑顔で請け負ってくれていた。
「馬車を走らせる程度なら俺でも出来ますから。」
正面に振り返った長野君は早速手綱を握り締めている。
「カリーナ方面に急ぎます。多少揺れるかもしれませんが我慢してください。」
…ああ、頼む。
「一応、ミッドガルムの国境までは急いでも6時間はかかると思います。カリーナ付近からは登山道が続きますので、到着は明日の早朝になるのではないでしょうか。」
…そうだな。
カルナック山脈を登ることを考えれば、
どうしても時間がかかるのは仕方がない。
「すでに竜の牙は国境に迫っているだろうが、陸軍の部隊が足止めしてくれていることを願うしかないな。」
「ええ、そうですね。」
俺の意見に同意してくれた長野君だが、
それでも不安を言葉にしていた。
「ただ…力付くで国境を突破してミッドガルムに逃亡する可能性は否定できませんね。」
…ああ。
可能性を言い出せばきりがないが、
今は陸軍が竜の牙を足止めしてくれることを信じるしかないだろう。
万が一にもミッドガルムに逃亡されれば、
こちらからは手出しが出来なくなるからな。
共和国軍をミッドガルムに突撃させるわけにはいかない現状。
何としてでも国境で竜の牙の逃亡を阻止する必要がある。
「間に合えば良いんですけどね。」
「すでに伝令部隊は派遣してあるのだ。先行して逃亡している竜の牙を追い越すのは難しいかもしれないが、今は仲間達の活躍を期待するしかないだろう。」
竜の牙が逃亡した方角を確認してから伝令部隊を派遣している為に伝令部隊が竜の牙を追い越して国境にたどり着くのは難しいと思うが。
竜谷元成が重傷を負っていることと竜の牙の部隊が隠密活動を心掛けているとすれば、
上手く行けば伝令部隊が一足先に国境にたどり着く可能性も決してないとは言い切れない。
「例え伝令部隊の到着が遅れたとしても陸軍が竜の牙との戦闘を堪え凌いでさえくれればそれで良いのだ。足止めさえ成功すれば竜谷元成に追いつける。」
今は竜谷元成を始末することにのみ狙いを定めている。
その目的さえ果たせるのであれば、
竜の牙そのものを取り逃がしたとしても構わない。
「竜谷元成さえ殺せれば竜の牙の脅威は確実に減少する。今はあの男さえ殺せればそれで良い。」
竜の牙を率いる竜崎、竜谷、竜道寺の3人の幹部。
その一角である竜谷が倒れれば、
竜の牙の戦力は大幅に減少するはずだ。
「今は竜谷元成を始末出来ればそれでいい。慶一郎が残した封印の影響が残っている間に奴を始末することが最優先だ。」
魔術での解呪は事実上不可能だが、
それ以外の方法がないとは言い切れないからな。
「国内で竜谷元成を始末する。そのために急ぐだけだ。」
「………。」
竜谷元成の殺害を目的とする俺の言葉を聞いている長野君は…どこか複雑な心境で戸惑っている様子に見えた。




