殺害失敗
《サイド:米倉宗一郎》
…逃げられたか。
竜の牙は一斉に退却していったようだ。
おそらくは指揮官である竜谷元成が倒れたからだろうな。
残念ながら止めを刺すには至らなかったが、
ひとまずグランバニアを襲っていた竜の牙達は瀕死の竜谷元成を引き連れてグランバニアから撤退してくれたのだ。
その結果として静寂が町を包み込み、
争いが終わったように思える。
…とは言え。
竜の牙が放った炎が今もなおグランバニアの町を火の海として燃え上がらせ続けている。
これから始まる消火作業を想えば、
まだまだ気は抜けないだろう。
「戦闘は終わったの…?」
周囲を見回す芹澤君が疑問を口に出しているが、
実際にどうなのかは俺にもまだわからない。
おそらく戦闘そのものは終わったと思うのだが、
撤退した竜の牙が再び襲い掛かって来る可能性が0ではないからな。
もう少し様子を見てから判断するべきだろう。
…それよりも、だ。
今は他に考えるべきことがある。
周囲を見渡す芹澤君や長野君達を残して、
真っ先に慶一郎の遺体に歩み寄ることにした。
…すまない、慶一郎。
竜谷元成を取り逃がしてしまった。
俺を守るために最期まで想いを貫いた慶一郎の願いは、
最後の最後で叶えられなかったのだ。
「すまない。これは俺の責任だ。」
トドメをさせなかったことに責任を感じてしまう。
「…すまない。」
ただただ謝ることしかできなかった。
そんな俺に長野君が歩み寄ってくる。
「…神崎さんを失ったのは大きな痛手ですね。」
…ああ、そうだな。
戦力としてもそうだが、
心を許せる仲間が失われたことが何よりも痛いと思う。
「すみません。俺達がもっと早く駆け付けていれば…」
「いや、きみ達のせいではない。」
謝罪してくれる長野君だが、
こればかりはどうしようもないことだ。
「これは俺と慶一郎の判断だ。だからきみ達のせいではない。」
…むしろ慶一郎の願いをかなえられなかった俺に問題があるのだ。
だからこそ。
せめてもの償いとして、
慶一郎の体を担ぎ上げてグランパレスに戻ることにした。
「慶一郎の弔いは俺が行わせてもらう」
この役目だは誰にも譲れない。
慶一郎に救われた命なのだ。
だからこそこの役目だけは自らの手で行いたいと思う。
そして。
叶えられなかった願いを、
今度こそ叶えたいと思うのだ。
…慶一郎。
今回は失敗したが、お前の想いは俺が必ず成し遂げてみせる!
逃亡した竜谷元成に速やかなる死を。
その想いを心に抱えながら、歩き続けることにした。
残された者の役目として。
望むべき未来にたどり着く為に。
歩みを進めたのだ。




