船大工の意地
「はっきり言おう。これからセルビナの港に攻め込む。そこで船の復旧作業を実行する。それまで耐え切れるか?」
「………。」
一言一言をしっかりと告げてみたことで、
棟梁は悩みながら答えてくれた。
「何とか耐え凌いで見せます。ですが先程も申し上げましたように確約は出来ません。」
苦渋の決断なのだろう。
船を守る立場の船大工として、
棟梁は苦渋の決断を下してくれていた。
「個人的には共和国に戻るべきだと思います。ですが、どうしてもと言うことであれば…最善は尽くします。」
………。
船が沈む事態を喜ぶ船大工はいない。
棟梁は最後まで共和国への帰港を薦めてくれているが、
ここで退くわけにはいかないのだ。
「棟梁の気持ちも十分に分かる。俺もむやみに軍を危険にさらしたくはない。だが、国境では今も苦しい戦いを強いられている仲間達がいるのだ。彼らの安全を考えれば無理にでも進軍する以外に選択肢がない。」
「………。そうですか。」
俺の想いを打ち明けたことで、
ついに棟梁は覚悟を決めてくれた様子だった。
「分かりました。修理と補強をお引き受けします。船大工の意地に賭けて船を守り抜いてみせます!」
「無理を言ってすまない。」
「いえ!元々そのために同行しているのです。どういう状況だとしても、任された船の整備は全力で行わせていただきます!」
船大工としての誇りに賭けて、
棟梁は補修作業の指揮を請け負ってくれるようだ。
「全員、気合いを入れ直せっ!!これより本格的に船の補修作業を開始するっ!!」
最小限の設備と限られた資材だが、
それでも棟梁は船大工としての戦いを宣言してくれた。
「これから共和国軍はセルビナ王国の港に攻め込むっ!その一戦において全ての船を守り抜く為に全力の想いで応急処置に挑めっ!これは船大工の意地を賭けた戦いだ!1隻の船も沈めることなく、全ての船を守り抜くっ!!それが俺達の戦いだっ!!船大工の誇りに賭けて!!全力で船を整備しろっ!!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおっっっ!!!!!!!!!!」」」」」
棟梁の指揮によって気力をみなぎらせる船大工達。
この場で出来ることはそれほど多くはないものの。
それでも全ての船大工達が一斉に作業へと取り掛かってくれたのだ。
「共和国の船大工の底力をセルビナ王国に見せ付けてやれっ!!」
必死に叫ぶ棟梁の勢いに乗って、
船大工達が各船の修理を開始していく。
…心強いな。
棟梁を含める船大工達の強い想いを感じて、
静かに微笑みを浮かべてしまう。
…彼等にならば命を托す価値がある。
彼等が守る船にならば、
この命を托すことが出来る。
戦争とは軍人だけが行うものではない。
船大工の協力がなければ船は守れないのだ。
そして医師の協力がなければ人を守れない。
なにより食事を用意してくれる者や、
身の回りの世話をしてくれる者達もいるからこそ、
軍は戦いだけに集中できるのだ。
数多くの仲間達による協力があるから、
俺達は戦い続けることが出来ている。
この想いが世界に広がれば、
いずれ争いはなくなるだろう。
いつの日にか終戦が訪れることを願いながら、
最後に一つだけ棟梁に問い掛けてみることにした。
「船の補修作業には、どの程度の時間がかかる?」
「単純な応急処置であれば一晩で可能ですが、十分な点検と完璧な整備を行うのなら2日は必要になります。」
…2日か。
それまでここで待機となると、
出発は最速でも明後日の朝になる。
「仕方がないな。急ぐのも重要だが、万全な状況を整えることも必要な戦略になる。ここは棟梁の指示に従おう。」
「ありがとうございます。」
俺の許可を得たことで、
棟梁の瞳に意志の力が宿ったように見えた。
「次の一戦の為に全力を尽くします。船大工の誇りに賭けて、必ず船を守り抜いてみせます!」
「ああ、頼む。」
気合いを入れて動き出す棟梁に全てを託して、
俺は自らの役目の為に動き出すことにしようか。




