まだ足りない
《サイド:御堂龍馬》
無人島の東側。
特にセルビナ軍が潜んでいる気配はなく、
目立つようなものも何もない小さな島の東部に僕達は上陸した。
小さいと言ってもジェノスの町が丸々一つ収まる程度には広い島なんだけど。
現在、僕は島の東側で特風の仲間達に取り囲まれている状況になる。
「風の奥義!鎌鼬っ!!!」
和泉さんが放つ風の刃が僕に向かって放たれた。
軍船を沈めるほどの威力を持つ風の刃が手加減抜きで放たれたんだ。
…なかなかの速度だね。
風の刃を確認してすぐに聖剣を構える。
…魔術大会でも十分に活躍できる実力があるんじゃないかな?
覚醒前の翔子なら倒せたかもしれない。
そう思えるくらいには強力な魔術なんだけど。
…それでもね。
「まだまだこの程度の攻撃では僕には届かないよ。」
…これならまだ真哉のほうが遥かに速いんだ。
アストリア軍に飛び込んだ真哉の実力には遠く及ばない。
同じ風属性でも精度が全く違うからね。
「グランド・クロス!!!」
僕の聖剣が十字の輝きを放ち、
迫りくる風の刃を強引に切り裂く。
…と同時に。
「きゃあああああああああああああっ!?」
接近していた和泉さんの体さえも後方へと吹き飛ばした。
「くっ…。ぅぅ…!!」
どうやら弾き飛ばされた勢いで激しく地面に激突した様子だね。
必死に痛みを堪える和泉さんは、
震える手で懸命に体を起こしている。
ルーンを杖代わりにしながら立ち上がろうとしているんだ。
…さすが、というべきかな?
闘志が残っているのは良い傾向だね。
諦めない勇気は評価するべきだと思う。
「大丈夫かい?」
「まだよ!まだ戦えるわっ!!」
ふらつく足と震える体。
全身の痛みに苦しみながらも、
和泉さんは必死に立ち上がろうとしている。
その間に今度は別の生徒が僕に襲い掛かろうとしていた。
「雷王っ!!!」
「焔っ!!!」
大森君が放つ雷撃と、
岩永君が放つ炎が僕に向けて放たれる。
…雷と炎か。
これも僕にとっては脅威とは思えない。
…これなら沙織のほうが遥かに強敵だね。
幾つもの強力な雷撃と膨大な炎だけど。
それでも僕にとっては冷静に対処出来る範囲内だ。
「…まだ足りないよ。」
雷と炎に狙いを定めて反撃に出る。
「ジ・ハード!!!」
聖剣の軌道に沿って放つ衝撃波によって、
雷と炎をあっさりと消し飛ばしてみせた。
「まだまだ威力が足りないんだ。」
二人がかりの攻撃でも僕には通用しない。
「これなら僕じゃなくても防げるよ?」
真哉も、翔子も、沙織もそうだけど。
間違いなく総魔や深海さんには何の影響もないだろうね。
「もっと強くならなければいけないんだ。今のままだと戦場で生き残るのは難しいからね。」
「ちぃっ!」
「くそっ!!」
悔しさを表情で示す二人だけど。
もちろん僕としても手加減するつもりは一切ない。
「この戦いはきみ達が望んだことだ。だから手を抜くようなことはしないよ。」
全力での戦いを挑まれた以上、
手を抜いて見逃すような失礼な行動を取るつもりはなかった。
「ジャッジメント!!」
生み出した光から次々と放つ星の輝き。
止まることのない無数の連続攻撃によって、
岩永君と大森君の二人も手も足も出ないまま吹き飛ばされて地面に倒れ込んでしまう。
「く…そ…っ!!」
「強すぎるだろ…。」
「う…嘘でしょ?」
力尽きて倒れた二人の姿を見て、
和泉さんは恐怖すら感じている様子だね。
「これはもう強すぎるなんて言葉で言い表せるような…そんな問題じゃないわよ!?」
すでに梶原裕美さんと伊倉信夫君は意識を失って倒れている。
そして岩永一郎君と大森遼一君も倒れたことで、
残っているのは和泉さんだけだ。
「次元が違いすぎるわ…。」
怯えながらもルーンを構える和泉さんだけど。
それでも逃げるという選択肢はないようだ。
「せめて一撃だけでも入れて見せる!!」
残された力を振り絞って駆け出した和泉さんは、
ルーン『グラディウス』に魔力を込めて最後の攻撃を試みようとしている。
「氷の奥義っ!!氷神の息吹っ!!!」
膨大な冷気を纏ったグラディウスによって、
全力で切りかかってくる和泉さんだけど。
「…それでもまだ足りないんだよ。」
聖剣であっさりと受け止めてみせた。
「そんな…っ!?」
攻撃が防がれてしまったことで、
和泉さんは動きを止めてしまっている。
…どうやら万策尽きた様子だね。
和泉さんの表情からは諦めの雰囲気が感じ取れた。
「この程度じゃ…足りないんだよ。」
「………。」
戦慄を感じている様子の和泉さんに淡々と告げる。
「この程度では『絶望』には届かないんだ。」
万単位の軍隊と戦う恐怖。
その絶望には遠く及ばない。
「戦場の恐怖は…この程度じゃないんだよ。」
宣言してから聖剣を振り抜く。
ただそれだけの動作で、
グラディウスは一瞬にして砕け散った。
…と、同時に。
「きゃあああああっ!!!!!」
破壊の余波によって和泉さんの体が再び後方へと弾き飛ばされていく。
「あう、ううっ…。」
悲鳴を上げながら地面に激突した和泉さんも、
ついに力尽きてしまったようだね。
「終わりだ。」
特風に所属する5人の仲間達は、
僕に一撃も入れられないまま全滅してしまった。




