きみがどうしたいのか?
「まだ言いたいことはあるか?」
「…いえ。」
あえて確認してみたことで、
西園寺君は気持ちを落ちつけて冷静に対応してくれた。
「所長の考えに文句はありません。ですが、もしもここで敗北した場合。その全てが夢で終わります。」
戦闘で敗北する可能性を考える西園寺君だが、
それは栗原君の責任とは言えないだろう。
「そうならない為に俺達がいるのだ。そしてその為に…御堂君達も自らの手を血で染め上げる覚悟を決めているのだ。」
栗原君が願う理想を御堂君達も望んでいるだろう。
そんなことは本人に確認するまでもない。
「俺達は必ず勝利する。そしていつの日にか必ず平和を実現して見せる。その為に戦い続けるのだ。」
栗原君の理想を実現する為に。
今はその為に戦えば良い。
「例え馬鹿げた理想だと笑われようとも、そんな馬鹿げた理想だからこそ命を賭ける価値があると思うのだが、きみはそうは思わないか?」
「………。」
誰も傷付かない世界。
誰も悲しまなくていい世界。
そして誰もが幸せに過ごせる世界。
そんな世界を俺も望んでいる。
「栗原君は未来のためのきっかけとして自らの役割を果たしたのだ。彼女の勇気と優しさはいつの日か必ず世界を変える力となるだろう。俺はそう信じている。」
「………。」
何も言わない西園寺君から視線を逸らして、
再びセルビナ軍に振り返ることにした。
「改めて言おう。戦争は止まらない。だが、栗原君の想いは必ず変化をもたらすはずだ。今はただ、その可能性を信じるだけでいい。」
呟く俺の視線の先で、
ついにセルビナ海軍が動き始める。
それは撤退ではなく進攻だ。
俺の予想通り、
セルビナ軍は戦闘の続行を選択して戦争再開へと動き出した。
「まずはこの戦いを終わらせるぞ。そして俺達は問い掛ける。戦争の意味を。そして命の価値を。俺達も問い続けるのだ。」
戦争を終わらせて魔術師狩りを止めさせる。
そして平和を手に入れる。
最終的には魔術師の存在を認めさせる必要があるのだが、
その前にセルビナ軍に立ち向かうことにしよう。
「栗原君の理想を叶える為に力を尽くす。それこそが共和国の未来へと繋がるのだ。」
ただ戦うだけではなく、
その先の未来の為にセルビナ軍に立ち向かう。
「どんなことにも不可能などない。出来ないことなど何一つとしてない。その考えこそが研究者の根底にあるものだ。そうだろう?西園寺君。」
「確かに…研究者としてはそうですが、戦争と研究では…」
意味が違うと思うのだろうか?
だとすれば、考え方を変えればいい。
「難しく考える必要はない。大事なのは『きみがどうしたいのか?』という、ただそれだけの話なのだからな。」
「それは…」
自分がどうしたいのか?という問い掛けに、
西園寺君は正直に答えてくれた。
「大切な人達が安心して暮らせる平和を手に入れることです。」
…だろうな。
だとすれば、だ。
はっきりと答えてくれた西園寺に伝えるべき言葉はもはや一つしかない。
「ならばその想いを行動で示せばいい。」
少なくとも栗原君は自らの意志を示したのだ。
誰も傷付けずに、誰も死なせない為の意志を彼女は示した。
「平和を願った栗原君の想いに対して、罪を問う必要はないだろう?」
「…はい。」
「それでいい。」
冷静さを取り戻して素直に従ってくれる西園寺君と共に再び戦闘態勢に入る。
そして背後の二人に想いを告げておく。
「西園寺君、藤沢君。俺はきみ達の幸せも願っている。生きてジェノスに帰り、その先の未来まで幸せであってほしい…とな。」
二人の無事を願いながら戦闘を再開することにした。
栗原薫の想いがセルビナ海軍に届いていることを願いながら再びルーンを構えてみせる。
「幻想を現実に変えることが研究者の使命だ!!」
だからこそ。
「栗原君の理想も現実へと変えて見せる!」
ルーンに想いを込めて、
限りある魔力を力に変えて攻撃を開始する。
「狙いは船のみだ!一人でも多くのセルビナ軍を生存させて理想への道を切り開けっ!!」
「「はいっ!!」」
戦場の指揮をとる俺の指示に、
西園寺君と藤沢君がまっ先に反応してくれていた。
「最後まで所長の指示に従います!」
「まあそのほうが、気が楽で良いんですけどね~。」
真剣な表情の西園寺君と笑顔を浮かべる藤沢君。
そんな二人の協力を得ながら俺達は戦争を再開した。




