もう十分
《サイド:栗原薫》
………。
成美の笑顔と言葉に…心を癒される気がしたわ。
「成美…。」
私よりも年下の女の子で、
本当の妹のように大切にしたいと考えていた成美の笑顔がとても嬉しく思えたのよ。
…ごめんね、成美。
私を心配してくれる成美の気持ちがすごく嬉しかった。
…ありがとう。
戦争という状況の中にあっても、
自分のことより私のことを考えてくれる成美に感謝したくなったの。
私を引き止めてくれた親友。
私を私として認めてくれる成美に、
心から感謝したいって思えたのよ。
…ありがとう、成美。
そう言ってくれるだけで、私は頑張れるわ。
心の奥底に潜み続ける絶望が消え去ることはなくても前を向く勇気は持てたのよ。
…私らしく、ね。
そんなふうに生きる為にやるべきことは限られてる。
…憎しみでは戦争は終わらないのよ。
殺しあう限り。
憎しみあう限り。
戦争は終わらないの。
だから戦争を終わらせる為に私が出来ることは一つしか思い浮かばなかったわ。
「…命を守ること。」
一人の医師として最も大切な想いを呟いた瞬間に。
私の手から優しい光が満ち溢れたのよ。
…えっ!?
突然の出来事に戸惑ってしまったけれど。
この光が何を示しているのかなんて、
気付くのに何秒もかからなかったわ。
「これってまさか…ルーンなの?」
両手に溢れる優しい光をじっと見つめながら光に想いを込めてみる。
…私が求めるルーンの形。
…それは一つ。
想像を創造に変えて、ルーンに形を与える。
その間にも成美の攻撃による被害を免れた陰陽師の軍船が私達の乗り込む巨大軍船に接近し始めているようね。
そして敵の接近に気付いた様子の成美が、
再びマテリアルを生み出して攻撃体勢をとっているけれど。
今の私はそれどころじゃないのよ。
「船を攻撃しますっ!」
再びアストラルフロウを発動させようとする成美だけどね。
もうその必要はないと思う。
…もう良いわよね?
魔術が発動する前に、
成美に語りかけることにしたのよ。
「もう良いよ、成美。もう十分。苦しみも…悲しみも…もう十分なのよ。」
成美を引き留めながらルーンを完成させる。
私が求める願いの形が、今この手にあるから。
「もう争いなんていらないわ。」
…殺し合うだけが全てじゃないから。
傷付け合わなくてもね。
戦争は終わるのよ。
「信じる気持ちが奇跡を起こすの。」
…ただ信じてさえいれば、奇跡は必ず起きる。
「信じる気持ちが『世界を変える』のよ!!」
生まれたばかりの一本の杖を両手で掲げながら、
私は私が思う『幸せな結末』を願うことにしたわ。




