知らない人の声
「…ダメだよ、薫。」
…え?
背後から告げられた声を聞いて、
戸惑いを感じながら振り返る。
そして、見てしまったのよ。
…なっ!?
「どうしてっ!?」
目の前の現実。
絶対に有り得ない状況を目にして混乱してしまったの。
「どうしてなの!?」
目の前の人物に問い掛ける。
そんな私に…成美は優しく微笑んでくれていたわ。
「ダメだよ薫。薫はそうじゃないよね?そんなふうに考える薫なんて…薫らしくないよ♪」
何度も私の名前を呼びながら、
ゆっくりと歩み寄ってくれているの。
その姿を見て慌てて駆け寄ってしまったわ。
…どうしてっ!?
「どうして動けるの!?魔力が尽きたはずなのにっ!!」
魔力を使い果たして倒れたはずの成美が目の前で動いているのよ。
意識を取り戻して、
自分の意思で行動しているの。
その事実がどうしても信じられなかったわ。
「どうしてなのっ!?」
「…う~ん?どうしてなのかな?」
成美は少しだけ困ったような表情を浮かべながら私の質問に答えてくれたのよ。
「私にも分からないけどね。だけど…声が聞こえたの。」
「声?」
「うん。知らない人の声。お姉ちゃんとも翔子さんとも違う声だったよ。だけどね。何故かとても寂しそうに…とても悲しそうに…何度も何度も私に謝ってくれていたの。」
…謝る?
成美の言葉を聞いて私のことかと思ったわ。
…だけど。
その考えはすぐに間違いだと気付いたの。
…知らない人の声なのよね?
普通に考えて私の声が分からないはずがないわ。
誰の声か分からないのならともかく、
知らない人と言い切った成美の言葉を信じるなら私ではないということよ。
「…何が聞こえたの?」
「えっと…ね。『ごめんなさい。私のせいであなたを苦しめることになってしまってごめんなさい。私のせいで戦争に巻き込んでしまってごめんなさい。本当に…ごめんなさい』って、謝ってたの。」
…ごめんなさい?
成美を苦しめて?
それって…成美を戦争に巻き込んだから?
意味が分からなかったわ。
だけど誰かの言葉を伝えたあとで、
成美は更に説明を続けてくれたのよ。
「『私には何も出来ないけれど。何もしてあげることが出来ないけれど。だけどせめて、あなたに力を…』って、言ってた。」
…成美に力を?
よく分からない言葉だけど、
それが成美の聞いた全てのようね。
「誰の声かは分からないけどね。凄く…凄く悲しそうな声だったよ。」
…悲しそうな声、ね。
それが誰なのかが気になるけれど。
それと成美が目覚めた理由にどういう関係があるのかは分からないままだったわ。
…成美は魔力が尽きて倒れたのよ?
だから本来なら魔力が回復しない限り、
目覚めることは出来ないはず。
…と言うことは、魔力が回復したの?
成美に視線を向けて魔力を確認してみる。
その瞬間に再び驚いてしまったのよ。
…そんなっ!?
…こんなことってありえるの!?
常識では考えられない現実が目の前にあったの。
誰がどう頑張っても起こせない奇跡なのに。
「魔力が回復してる!?」
失われたはずの魔力が完全に回復していたのよ。
その事実に気づいたことで、
一つの答えを導き出してしまったわ。
『魔力の供給』
そんな奇跡的な現象を起こせる人物なんて、
この世界に『二人』しか存在しないからよ。
…もしも成美の言葉が真実なら?
この奇跡を起こしたのは女性のはず。
そしてそれはつまり。
…深海優奈さん。
彼女の心さえも、成美は受け継いでるっていうの?
『吸魔』の特性を持って魔力を自在に操れる少女の力を受け継いでいるのかもしれないって思ったの。
…あるいは、深海優奈さんが生きてる?
その可能性に思い至ったところで、
成美が話しかけてきたのよ。




