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THE WORLD  作者: SEASONS
4月21日
1726/1879

すでに手遅れ

《サイド:ウィッチクイーン》



…ふう。


…ようやくここまで来れたわね。



共和国とミッドガルムの間に広がるカルナック山脈から無事に下山を終えた私達は、

山裾に広がる林の一角に身を潜めているところになるわ。



竜の牙やセルビナ軍との戦いによって200名程度にまで人数が減ってしまったうえに、

ほぼ不眠不休だった仲間達を休ませる必要があるから、

林の中に身を潜めて僅かな休息をとることにしたの。



…さすがにね。



色々と問題だらけよね?



すぐ傍にいる妹の雪に視線を向けてみる。



すでに眠りから目覚めて、

自分の意思で行動しているんだけど。


今は真剣な表情で魔術を展開している最中なのよ。



今にも涙がこぼれ落ちそうな表情で…だけどね。



…はぁ。



これまでの疲れを吐き出すかのようにため息を吐いてしまう。


今の私にとって頭を悩ませるべき問題は、

これまでの出来事ではなくて現在の状況にあるからよ。



…どんな事情があるのかは知らないけどね。



さすがにもう治療が遅すぎたのよ。



私が見つめる視線の先で、

雪が北条辰雄の治療を行っているの。



懸命に雪を守って最後まで雪を庇って倒れたらしいけれど。


肝心の北条辰雄の治療は思うように進まない様子なのよ。



…意識を失ってから時間が経ちすぎているわ。



それにね。


そもそも怪我の状況が致命傷に達していたにも関わらず、

一晩中まともな治療が出来なかったわけだから。



さすがにこれはもうね。


手遅れとしか思えないのよ。



どう考えても北条辰雄は助からない…というのが私の判断なの。



…救出した時点ですでに手のほどこしようがない状況だったのよ?



それなのに。


今からの治療なんて不可能としか思えないわ。



どうして雪が北条辰雄を助けようとしているのかは知らないし、

まだ何も聞いていないけれど。



意識を取り戻した雪はすぐに北条辰雄の治療を始めてしまったから話を聞ける状況ではなかったのよ。



わざわざ他の仲間達に確認するのもなんとなく…ね。



雪のことに関して本人からではなくて仲間から話を聞くと言うのは気が引けるわ。


だからこそ雪の気が済むまで様子を見ようと考えていたんだけど。



…まだ諦める様子はなさそうなのよね〜。



今もまだ必死に治療を続けているのよ。



すでに怪我の治療は終わっているのに。


今ではもう体のどこを見てもかすり傷一つ存在しないのに。



それでも北条辰雄は目覚めない。


だから雪も諦めようとはしなかったわ。



…でもね?



死人に何をしても生き返りはしないのよ。



いい加減に諦めるべきだと思うのに。


雪はまだ諦められないみたい。



瞳から涙をこぼしながらも懸命に治療を続けているの。



…それでもね。



北条辰雄は目覚めない。



…もう、手遅れなのよ。



これ以上続けても奇跡なんて起こりはしないわ。


そんなことが起こり得るのなら誰も死んだりしないから。



「…雪。」



必死に魔術を展開している雪に歩み寄って呼び掛けてみる。


その瞬間に雪の肩が小さくビクッと震えるのが見えてしまったのよ。



「………。」



溢れこぼれる涙を気にすることもなく、

ただひたすらに魔術を展開する雪はもう自分でも止め時が分からないのかもしれないわね。



だから声をかけようとしたの。



「雪。もう…」



もう止めなさいと告げようとしたんだけど。



「…い、嫌っっっっっ!!嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



雪は私の言葉を否定してまで、

無理に治療を続けようとしていたのよ。



まだまだ魔力が回復していないせいで、

決して多くはない魔力なのに。


それでも全ての魔力を使い果たすつもりで魔術を展開し続けているの。



「もう…嫌なの…っっっ。」



………。



「もう、失いたくないの!!」



…もう、ね。



たぶん雪は自らの命を引き換えにしてでも、

北条辰雄を目覚めさせようとしているんでしょうね。



かつての戦いによって、

父親を失ってしまったから。



だからあの時と同じように。


あの日と同じように。


雪をかばって戦場に倒れた北条辰雄を助けたいんだと思うわ。



だけど今回は雪が意識を失っていたことで、

北条辰雄の最後を見届けることが出来なかったのよ。



そのせいで雪は悔しさを感じているのかもしれないわね。



何も出来なかった自分に対して、

守ることが出来なかった自分自身の力に対して悔しさを感じているんだと思う。



悲しみと絶望。


そして孤独感が雪の心を蝕んでいるのよ。



「もう…嫌なの。お父さんを失うのは…もう…嫌…っ。」



…ふぅ。



死んでしまった父と同じように、

北条辰雄も死んでしまう。


その現実が雪には耐えられない様子ね。



「もう嫌なのっ!!」



………。



懸命に訴える雪の言葉に込められている想いに気付いてしまったせいで、

これ以上何も言えなくなってしまったのよ。



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