らしくない
「…ったく、も~!美春らしくないわね~?もうちょっとしっかりしてくれないと、私が楽できないじゃない。」
…はぁっ!?
くだらない理由を笑顔で愚痴る千夏の発言が理解できなくて、
即座に言い返そうとしたんだけど。
「そんなに悩まなくても、美春は美春で良くない?」
その前にね。
千夏は私の瞳を見つめながら笑顔で囁いてくれたの。
「無理をする必要なんてないし、してほしいとも思わない。私は今の美春が好きだし、これからもずっとそうであって欲しいと思ってる。」
…はぁ?
何よ、それ?
そんな言い方こそ、千夏らしくないじゃない?
それなのにね。
千夏は笑顔のままで自らの意志を告げようとしていたのよ。
「だからね♪美春はそのままで良いんじゃない?」
「だから、それってどういう…?」
意味かを問いかける前に宣言してしまったの。
「だからこれは私の役目なのよ。美春の代わりに私が戦うから、だから美春はそのままでいてね♪」
…役目?
言いたいことを言った千夏は、
少しだけ淋しそうな表情を浮かべてから私に背中を向けてしまったの。
「…手を汚すのは私の役目だから、美春は無理をしなくていいのよ。」
…はあ!?
何よ、それ?
…何なのよ?
そんなふうに言われたら、泣きそうになるじゃない!
「…待ちなさいっ!!」
勝手なことを言って歩き出そうとする千夏を力付くで引き止める。
千夏の右腕をつかみ取って、
全力で千夏を引き止めたのよ。
「何を勝手なことばかり言ってるのよ!普段は自分勝手で私の話も聞かずに迷惑ばっかりかけるくせにっ!!こんな時にだけ格好つけるなんて、『らしくないのは』そっちのほうでしょっ!!」
自分でも不思議なくらいに自然と込み上げてくる怒り。
それは普段暴走ばかりしてる千夏に呆れるような気持ちとは全くの別物で、
悩みを抱える私に対して千夏が優しい態度を見せたことが許せなかったのよ。
…馬鹿で!
…自分勝手で!
…自由気ままで!
どうしようもないくらい手のかかる子のくせに!
…こんな時にだけ優しくなんてしないでよっ!!
私が迷っている時に自然と庇ってくれる存在。
そんな千夏だからこそ、
心から親友だと思うことが出来るのよ。
…あ〜〜、もうっ!!
暴走馬鹿の千夏でさえ戦おうとしてるのに。
…なのに、私はっ!!
自分のことばかり考えていて、
一人で思い悩んでいたことに激しい自己嫌悪を感じてしまったわ。
…違うっ!!
こんなのは私じゃない!!
…私は!
私はっ!!
悩みを振り払うかのように何度も頭を振る。
そして心の迷いを払いのけて覚悟を決めたの。
…私は、私よ!
これからどれほどの罪を重ねるとしても、
それは何も変わらないわ。
…私は私のままよ!!
決意してから力付くで千夏の体を引き寄せる。
『グイッ』と右手を引っ張ってから、
力強く千夏の体を抱きしめたの。
そして…その瞬間に気付いてしまったのよ。
「………。」
私の腕の中で…千夏は小さく震えていたわ。
…ったく。
出来もしないくせに強がるんじゃないわよ。
千夏がそんなふうに強がっていたら、
私の出番がなくなるじゃない。
「私が千夏の保護者なんだから、千夏は黙って私の言うことを聞いていれば良いのよ。」
そっと囁きながら、
精一杯の力で千夏の体を抱きしめる。
そして感謝の気持ちを言葉にしたの。
「ありがとう…千夏。」
千夏のおかげで吹っ切れたわ。
だから私はもう迷わない。
「千夏にはそのままで居てほしいから…だから、ね。これは私の役目よ。罪を背負うのは私一人で十分だから…千夏まで手を汚す必要なんてないわ。」
出来る限り優しく囁いてから、
千夏に生涯最後の笑顔を見せることにしたの。
…これがきっと最後だから。
一度でも罪を侵せば二度と心からの笑顔を見せること出来ないと思うから。
だからこそ最後の笑顔は千夏に見届けてほしかったのよ。
「千夏と親友で良かったわ。今なら心からそう思える。だから千夏はそのままでいてね。」
手を放して背中を向ける。
そして戦争という恐怖に怯える千夏を残して戦う覚悟を決めたのよ。
「千夏だけは…そのままでいてね。」
たった一つの想いを残して、
千夏の前から立ち去ることにしたの。




