純粋な恐怖
《サイド:常磐成美》
戦場を飛び交う魔術。
幾つもの雷が飛んで。
暴風が吹き荒れて。
次々と爆発を起こしながら炎上していくセルビナ軍の船。
私達の乗る船は残存していた4隻の軍船を次々と海に沈めながら一直線に戦闘海域を突き進んでいました。
敵軍の数千、数万の命を奪いながら…です。
私達が乗る船は血と沈没船の残骸が広がる戦闘海域を突き進んでます。
立ち塞がるセルビナ軍を次々と海に沈めながら進み続けているんです。
東側の包囲網を完全に崩して、
共和国軍の艦隊へと接近していました。
その光景を…私ははっきりと見ていました。
視力を取り戻した瞳で、
戦争という名の残酷な争いを目にしていたんです。
そして『死』の一文字だけを心に思い描いていました。
…人が、死んでいくよ?
ジェノスの魔導学園でも数え切れないほどの命が失われた場面を目撃していましたが、
それでもこの惨劇は直視できるような光景ではありません。
海に浮かぶセルビナ軍の死体。
本来なら青い海を赤く染めていく血。
粉々に崩壊した軍船を目にした私は目の前の現実から視線を逸らしてしまって、
無言のまま俯いてしまいました。
…これが、戦争なの?
…これが、お姉ちゃんの命を奪った戦争なの?
お姉ちゃんと翔子さん。
二人がどんな想いで戦場に立っていたのかなんて私には分かりません。
恐怖の叫び声と死の絶望が混在する戦場で、
二人がどんな想いで戦い続けていたのかなんて私には分からないんです。
…怖い。
…怖いよ。
…お姉ちゃん。
激しい爆発音が鳴り響くたびに戦場に響き渡る悲鳴。
セルビナ軍の艦隊が全て沈んで、
迫り来る漁船さえも次々と沈めていく黒柳さん達の殺戮は、
私には直視できるような光景ではありませんでした。
…いえ。
もしかしたら私だけではないのかもしれません。
薫や…他の人達も視線を逸らしているような気がします。
私じゃなくても視線を逸らしてしまう惨劇の恐怖に身体を震わせてしまいました。
…ですが。
これは死への恐れとかではなくて、
痛みへの怯えでもなくて、
ただただ純粋な恐怖です。
ただここにいるだけで自然と身体が震えるほどの恐怖のせいで、
手や足が…そして心が恐怖で竦み上がってしまいました。
…これが?
…ここが?
戦場なんです。
…怖いよっ。
恐怖を感じて怯えてしまいます。
争いを知らず。
戦いを知らず。
殺し合うということを知らなかった私は、
ここに来てようやく現実を知ったんです。
…お姉ちゃん。
…翔子さん。
…助けて!
必死に救いを求めてしまいました。
…ですが。
二人はもういません。
どれだけ願っても。
どれほど熱望しても。
亡くなってしまった二人が手を差し延べてくれることはないんです。
…それでも。
それでも助けて欲しいよ。
…お姉ちゃん!
必死に願ってしまいました。
だけどその願いは叶いません。
この願いだけは叶わないんです。
…でも。
私に手を差し延べてくれる人は…すぐ傍にいたんです。




