私達の指揮官
《サイド:和泉由香里》
…ふぅ。
何とか先行部隊は壊滅したわね。
ほっと安堵の息を吐いてしまったわ。
だけど、その安堵もつかの間で、
すぐに緊急の知らせが5隻の船に飛び交ったのよ。
「西側より新たな艦隊が接近しています!!!」
「その数はおよそ10隻!!」
「あれは…っ!?あれは…っ!!!」
戸惑う海軍の兵士達の声を聞いて不審に思った私が西側に視線を向けると同時に、
海軍の兵士が大声で叫んだの。
「陰陽の紋を掲げる旗っ!?あれは陰陽師の部隊ですっ!!!」
…へ?
…陰陽師?
「西側より、陰陽師の艦隊が接近していますっ!!!」
必死に報告する兵士の報告を受けた共和国の海兵達は一瞬にして騒然となっていたわ。
「ついに来たかっ!!!」
「セルビナの精鋭部隊だっ!」
各地で叫ぶ兵士達。
その声を遮るかのように、
更なる報告が共和国軍に絶望を与えようとしていたのよ。
「南方より、新たな艦隊が接近中っ!陰陽の紋を掲げる旗です!」
…はぁぁぁ!?
…冗談でしょっ!?
報告を聞いて即座に南へと視線を向けてみる。
…嘘でしょ!?
報告があった方向には確かに船の姿が見えたわ。
…囲まれたのっ!?
西と南の両側から接近する陰陽師の艦隊の数はおよそ20隻。
そこに共和国側から接近しているセルビナ海軍の艦隊も含めると。
…50隻っ!?
しかも共和国軍の艦隊を撹乱するかのように動き回る漁船も無視は出来ない。
…セルビナ軍に包囲されたのっ!?
どう考えても退路なんて存在しないわ。
東西南北の全てを囲まれてしまったことで、
共和国軍は完全に外海から隔離されてしまったのよ。
「…ああ、もう~!!この状況でどうしろって言うのよっ!!」
焦ってしまうけれど。
身動きの取れなくなった共和国軍に対して、
セルビナ海軍は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
共和国軍と同様に遠距離からの攻撃を仕掛けてくる陰陽師達がいるせいで、
20隻の船から放たれる陰陽術によって共和国の軍船はあっさりと沈み始めてしまったの。
…最悪の状況ね。
最も前方に出ていた旗艦が、
陰陽師の攻撃によってまっさきに沈み始めているのよ。
…共和国が負けるの?
絶望にうちひしがれてしまう状況。
セルビナ海軍に包囲されてしまった以上、
ここから逆転する作戦なんて存在しないわ。
これほどの圧倒的な戦力差を巻き返せる実力を持つ魔術師なんてここにはいないからよ。
…もう、ここまでね。
沈み行く船に乗りながら戦いを諦めてしまう。
…だけど。
終わりはまだ訪れないみたい。
戦う意志を持つ人がいる限り、
決して終わりは訪れないから。
この時の私はまだ気づいていなかったけれど。
完全な包囲網を作り上げたセルビナ海軍にとって、
唯一の誤算とも言える戦力がすぐ側にまで迫っていたの。
それは戦場の東側から。
『私達の指揮官』を乗せた船が、
共和国側に回り込んでいるセルビナ海軍の艦隊のすぐ側にまで迫っていたのよ。




