実は俺よりも
《サイド:長野淳弥》
午前6時を目前として、
ようやくグランバニアの町に到着した。
「ふう…。ようやくたどり着いたな。」
神崎慶一郎が、ほっと安堵の息を吐いている。
「予定よりも早く着きましたね。」
「ああ、そうだな。直接目指しても8時間ほどかかる道程を、寄り道しながらも9時間程度で到着できたたのは運が良かったとしか言いようがないな。」
…確かに、そこは俺も驚いているところだった。
この移動速度はどう考えても異常としか思えない。
「馬車に何か細工でもしてあるのですか?」
魔術研究所の技術力で何らかの仕掛けを施したのかと思っていたのだが、
どうやらそういうことではなかったらしい。
「いや、そうじゃない。大したことではないが、風の魔術を応用して馬車の重量を軽減させただけだ。おかげで加速しても、それほど揺れなかっただろう?」
…は?
…風の魔術だと?
気楽に笑う神崎を見て、
内心で激しい動揺を感じてしまった。
…と言うことは、まさか!?
一晩中、魔術を展開していたのかっ!?
「よく魔力が底を尽きませんでしたね?」
「ん?ああ、それなら大丈夫だ。何も一晩中、魔術を展開していたわけではないからな。」
…はぁ!?
…違うのか?
「どういうことですか?」
「なに、簡単なことだ。直線では普通に馬車を走らせながら、まがり道や上り坂などの減速せざるを得ない状況でのみ魔術を展開していただけだからな。」
…なっ?
馬車を減速させずに、常に最高速度を維持していただと!?
全く考えていなかった事実を知ったことで、
神崎慶一郎という人物の評価を更に改める必要があると思ってしまった。
…実は俺よりも優秀な魔術師なんじゃないだろうな?
戦闘の技術は不明だが、
魔術の応用力や魔力の総量は俺よりも上回っているのかもしれない。
…特性を封じたことで分析は不可能だが。
神崎の実力は完全に予想外だな。
『ただの魔術医師』と判断していた神崎の意外な才能に気付いたことで、
今までの調査不足を実感して苦笑いを浮かべてしまう。
…ったく。
米倉宗一郎に関わる人物は完璧に調べあげていると思っていたんだが。
…まだまだ知らないことがあるんだな。
今まで表舞台に出なかった神崎慶一郎の実力を知って密かに落ち込んでしまう。
学園内において『知らないことは何もない』と自信を持っていたのだが、
現実はそこまで簡単ではなかったということだ。
…神崎慶一郎か。
まさか戦闘技術まで超一流なんてことはないだろうな?
実際に見てみないことには分からないものの。
並の魔術師とは『格が違う』ような気がする。
…こうなると神崎慶一郎に関しても要注意だな。
今後の方針を考えながら、
ひとまず質問を続けることにする。
「それで、これからどうするんですか?」
「まずはグランパレスに向かう。そこで部隊を集める予定らしいからな。」
…ああ、なるほど。
確かこの町には陸軍の部隊が常駐しているはずだったな。
即座に答えてくれた神崎は、
魔術大会の会場となるグランパレスに向けて、
まっすぐに馬車を走らせていた。




