死亡報告
《サイド:米倉宗一郎》
…そろそろ夜明けだな。
ジェノスを出発してからグランバニアを目指していた俺達は、
目的のグランバニアに到着するまであと十数分という所にまで距離を進めていた。
「まもなくグランバニアに到着します。」
声をかけてくれたのは業者台に座って馬車を走らせている神崎慶一郎だ。
二頭の馬を巧みに操り、
極力馬車が揺れないように配慮しながら馬車を走らせてくれている。
「今日は良い天気のようですね。」
「ああ、そうだな。」
昨日の大雨のせいで地面には数多くの水たまりがあるものの。
空に雲は見えない。
おそらく今日は晴天になるだろう。
…まあ、それはそれとして、だ。
『ガタゴト…ガタゴト…』と、音を立てながら街道を進む馬車の揺れは心地好ささえ感じさせるほど安定していて、
馬車に乗る生徒達は気持ち良さそうな表情で眠りについている。
芹澤里沙と矢野百花。
そして芹澤啓輔の3人が静かに眠りについているのだが、
一人だけ起きている長野君が話し掛けてきた。
「予定よりも早かったですね。」
「ああ。」
まだまだ喜べる状況ではないが、
各町における竜の牙との戦闘が終了していたことで、
思っていたよりも早くグランバニアに到着できたのだ。
その点だけを考慮すれば一見順調に思える道のりだったのだが、
実際の内容は何一つ喜べる状況ではなかったと思っている。
…はぁ。
重苦しい雰囲気でため息を吐いてしまう。
自然と苦々しい表情を浮かべてしまうのだが、
その理由は長野君も慶一郎も知っている。
現在眠りについている生徒達はこれまでの道中において戦闘が発生しなかった為に気を抜いて眠りについているが、
ジェノスを出発してからすぐに気絶状態から復帰した長野君や一晩中馬車を走らせ続けて一睡も出来なかった慶一郎は各町で起きた事件の全貌を知っているからだ。
その内容こそが俺が頭を悩ませている理由なのだが、
これまでに通過してきた各町において幾つもの悲しい報告を受けていた。
…それはつまり。
各町を代表する主要な人物達の死亡報告だ。
これまでに通過した全ての町において、
町を任されていた知事の死亡を確認している。
マールグリナの朱鷺田と同様に、
全員が暗殺されたらしい。
…悔しいが、竜の牙の狙い通りに踊らされているな。
あえて町全体を襲う事で警備の目を広範囲に広げ、
護衛が手薄になった隙をついて各町の要人が暗殺されてしまったのだ。
…とは言え。
防衛体制に問題があったわけではない。
要人に警備を集中させれば町の被害が広がり、
町を守ろうとすれば護衛が減ってしまうのだ。
限りある戦力では全てを守り抜くことができない。
だからこそ何を優先して守るかを決断する必要があるのだ。
…どちらを選んでも最悪の結果だがな。
結果的に竜の牙との戦いよって多くの仲間達の命が失われたという報告ばかりだったのだ。
各学園の理事長や学園長などの優秀な人材も半数以上が亡くなり、
治安維持部隊や魔術師ギルドもほぼ壊滅状態となっていた。
「まさしく最悪の展開だ。他に言いようがないほどに…な。」
絶望的な思いで呟いてしまう。
各町から戦力を結集して竜の牙と戦うつもりでいたのだが、
戦力を集めるどころか襲撃によって発生した町の被害の後処理と負傷者の救出作業の為に、
桜井由美が送り込んでいたカリーナの部隊をそのまま各町に残さなければならない状況になっていた。
その結果として。
部隊の召集に失敗した俺達は、
たった一台の馬車だけでグランバニアの町を目指して移動を続けているのが現状になる。
…場合によっては由美の部隊は戦力から除外しなればならないだろうな。
どうしても落ち込んだ表情で俯いてしまう。
「このままでは戦力が揃わないかもしれないな。」
「…そうですね。各町の復旧作業には数日の期間が必要だと思います。」
別の手段を考える必要があるかもしれないと考え始めたところで、
今度は慶一郎が話し掛けてきた。




