初めて聞く笑い声
「御堂龍馬だと?」
…どうして彼なのだろうか?
ありえないとは言わないが、
時期尚早ではないだろうか?
「彼には荷が重いのではありませんか?」
「いえ。私は彼こそが適任であると考えています。」
「何故ですか?」
「簡単なことですよ。御堂龍馬は絶望を知っています。大切なモノを失う痛み。その苦しみと悲しみを知っているからです。そして彼はその痛みを乗り越える心の強さも持っています。代表として必要な能力とは統治力でも政治力でもありません。代表として必要なモノは絶望を乗り越える信念です。」
………。
自信を持って告げる近藤誠治は、
一切の迷いを見せずに自分の意見を告げてくる。
「もしも彼が生きて戦争を終わらせることが出来たなら、私は御堂君を推薦するつもりでいます。彼こそが共和国の希望であり象徴です。どう考えても御堂君は英雄程度で終わる器だとは思えません。彼ならばこの共和国の代表として良き指導者になれるのではないでしょうか?」
…御堂龍馬を共和国の代表に、か。
適任かどうかはともかくとして、
ここまで近藤誠治に言わせるとはな。
俺が近藤誠治に推薦された時でさえも、
ここまでの言葉は聞けなかったと思う。
…だが。
近藤誠治の人を見る目は本物だ。
今だかつてこの男の判断が外れたことは一度もないのだからな。
俺の時もそうだが美由紀の時も近藤誠治の意見が何よりも優先されていた。
その事実は俺も身をもって知っている。
…それほどの男が次に目を付けたのは御堂龍馬か。
確かに実力に申し分はないだろう。
統治力に関しても学園での成績と行動を考えれば期待が持てる。
多くの者達の信頼も得ているうえに、
魔術大会において名を馳せている御堂君ならば異論はない。
強いて言うなら年齢的に不安はあるが、
俺や近藤誠治が支えれば解決出来る範囲内だ。
他に適任者がいないとは言いきれないが、
近藤誠治の判断は決して的外れではないと感じてしまう。
…だが、その為には御堂君が戦争において生き残ることが前提になる。
美由紀同様に戦争において死亡しては意味がないのだ。
生き残って初めて代表となれる。
「…だとすれば、御堂龍馬の生存が最優先事項ですか?」
「いえいえ、そこまで考えずとも生き残るでしょう。」
…生き残る、か。
「俺達が何もせずとも問題ないと言うことですか?」
「いえ、正確に言うなら生き残らなければいけないということです。多くの者達の想いを受け継いで生き続けること。それが代表としての条件です。」
それはつまり。
生き残れなければ代表としての価値がないと言っているに等しい発言だ。
「彼が生きて戦争を終えることが出来たなら、その時に私は彼を代表へと推薦させていただきます。」
…なるほどな。
つまりは戦争によって御堂君をふるいにかけるということか。
「随分と彼に肩入れするのですね」
「ふっふっふ。彼ならば信頼できると思うからですよ。そう思わせたことが彼の力でしょう。私と真剣に向き合い、臆することなく自分の意見をまっすぐにぶつけてきた彼を見て信じてみたくなったのですよ。それが若さ故の行動なのか?それとも彼の実力なのか?興味が出たのです。そして見てみたくなったのですよ。彼の未来とその行く末を…」
………。
御堂君の成長を見たいと言って笑う近藤誠治の表情を見て驚いてしまった。
近藤誠治の笑い声など初めて聞いたからだ。
微笑むことはあっても声を出して笑うことは一度もなかったはず。
だからこそ近藤誠治の笑顔を目にしたのは初めてだったと思う。
…なるほどな。
…御堂龍馬か。
近藤誠治の心をここまで動かせた男は彼が初めてだな。
正直に言って少しだけ悔しさを感じてしまう自分がいた。
…長年関わっている俺でさえ出来なかったことを、御堂君は成し遂げるのか。
近藤誠治を笑わせたというただそれだけのことに悔しさを感じてしまったのだ。
…確かに俺を越える逸材だな。
そこは素直に認めようと思う。
「分かりました。御堂龍馬を代表にするという方向で協力します。俺も彼の未来を見てみたくなりましたので」
共和国の未来を見届けるために、
終戦に向けて旅立つことにしよう。
「御堂龍馬を生存させます。例え俺の命を引き換えとしてでも、彼は死なせません」
「頼もしい言葉ですね。ですが御堂君には人を惹きつける力があると私は思っています。ですからきっと御堂君は生き残るでしょう。御堂君を守ろうとする者達がいる限り、御堂君は死ねませんよ。」
…ははははっ。
…なるほど。
「では、俺もその一人です。」
御堂君の盾となるために戦おう。
そのために退室しようとしたところで、
近藤誠治が語りかけてきた。
「大丈夫です。貴方も死ねませんよ。」
………。
「きっと貴方を守ろうとする者達がいるでしょう。人の上に立つ才能を持つ者の周りには、その才能を守る者達が集まるものです。だからきっと貴方も死ねないと思いますよ。これから先もずっと。多くの仲間達の屍を乗り越えて生きて行かなくてはならないのです。それが国を代表する者の役目なのですから。」
…仲間の屍を乗り越えて、か。
耳が痛くなる言葉だな。
「ええ、分かっています。俺を守るために死んでいった者達がいるということを。嫌と言うほど理解していますから。」
親友である天城総司に限らず、
これまで多くの仲間達の死を目にしてきたのだ。
その罪の意識がある限り、
自らの役目を投げ捨てることは絶対に出来ない。
俺には死者の想いに応えるために戦い続ける義務があるのだから。
「生き残る努力はします。」
「ええ。それが上に立つ者の務めです。」
…務め、か。
近藤誠治の言葉を聞きながら扉に手をかけることにした。
「行ってまいります。」
「ええ、お願いいたします。」
旅立つ俺を近藤誠治は笑顔で見送ってくれていた。
「私はここで共和国の勝利を信じています。これまでも…そして、これからもです。」
…これからも、か。
見送ってくれる近藤誠治に何も言えないまま、
学園長室を退室することにした。




