次期代表
《サイド:米倉宗一郎》
人気の少ない一室。
現在この部屋には俺と近藤誠治の二人しかいない。
…もうこんな時間か。
何気なく時計に視線を向けてみると、
時計の針は午後8時50分を示そうとしていた。
「そろそろ時間だな。」
「ええ、そうですね。」
打ち合わせを終えて席を立とうとしたところで、
近藤誠治が話し掛けてきた。
「ひとまず今後の方針は決まりましたが、それはそれとして米倉様に一つだけお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
…ふむ。
…俺に質問か。
「何でしょうか?」
「今ここで聞くべき内容かどうかは分かりませんが、やはり早急に解決すべき問題だと思いますので、米倉様のご意見を聞かせていただきたいのです。」
…発言の内容から察するに、急ぎの案件のようだな。
何かあっただろうか?
特に思い浮かぶことがなかったのだが、
一度だけ深呼吸を行った近藤誠治は俺の瞳をまっすぐに見つめながら話を聞かせてくれた。
「米倉美由紀代表が亡くなられたために、現在共和国は代表不在の状況です。戦争も終わりが見えず、混乱が続く現状で代表の不在という状態はあまり好ましいことではないと思います。早急に次の代表を決めるべきではないでしょうか?」
…ああ、なるほどな。
…美由紀の次か。
確かに代表の不在は問題があるだろう。
…とは言え。
娘が亡くなってすぐに次を考えるという気分にはなれないという気持ちもある。
そのせいで複雑な心境になってしまった。
…困ったな。
…どう答えるべきだろうか?
近藤誠治の意見は正しいと思う。
だが、な。
娘が死んだばかりで、
早急に次を考えろと言われてもすぐには答えられないものだ。
…とは言え。
近藤誠治も孫を失っているのだ。
決して無責任に発言しているわけではない。
…ふう。
感情で考えるべきではないのだが、
次の代表を決めなければ和平の交渉も成り立たないだろう。
一人の父として思うことは幾つもあるが、
共和国を代表する立場としては避けて通れない問題でもある。
ひとまず今は緊急事態ということで俺が代表代理という形で国内はまとまっているが、
国外に対する外交を考えれば代表代理では話が進まないからな。
…代表を選出する必要はある。
それに、だ。
そもそも俺は病で引退した身だ。
現在の体調を考えれば、
いつまでも代理を続けるわけいもいかないという事情もある。
…俺が代表代理を続けられるのは短期間だけでしかない。
長期的な活動は体がもたないからな。
ここぞという時に病気で動けないようでは話にならない。
その辺りの事情も含めて、
早急に次の代表を選出する必要があるのは分かる。
…分かるのだが。
現在の状況で代表を務められる人材はいないのではないだろうか?
近藤誠治は実力があるものの、
年齢が年齢だけにあまり無理はさせられない。
かといって琴平重郎や桜井由美では代表には力不足だ。
黒柳大悟や神崎慶一郎は有能であり人気も高いが政治向きではない。
政治家としての交渉能力はもちろんだが、
大を残すために小を切り捨てる判断力もなければ共和国の代表は務まらないからな。
その点において弱者救済を主とする大悟や慶一郎では代表の座は荷が重いだろう。
そう考えると残る選択肢は限られてくる。
「グランバニア魔導学園の学園長、進藤輝彦が最有力か。」
進藤家は俺が代表となる以前に代表を務めていた実績もある一族だ。
その血筋を考えれば進藤一族に共和国を委ねるのが最良の判断だと思えるのだが、
近藤誠治は微かな微笑みを浮かべながら首を左右に振っていた。
「確かにそれも悪くない判断だとは思います。ですが、私なら別の人物を推薦します。」
…ふむ。
すでに目星がついているのか。
「彼ならばこの共和国に平和をもたらしてくれると信じています。」
…ほう。
近藤誠治にここまで言わせる人物がいるのか。
俺でさえそこまでの評価を言ってもらえた覚えがないのだが、
近藤誠治が自信を持って断言したことで、
誰が指名されるのかに興味を持ってしまった。
「一体、誰を考えているのですか?」
「とても身近な人物ですよ。」
…身近な人物?
「御堂龍馬です。彼以外には考えられません。」
…ん?
御堂龍馬だと?
近藤誠治から告げられた名前は俺にとって予想外の人物だった。




