すでに証明されている
《サイド:近藤悠輝》
…良く分からないな。
交渉を後回しにしてでも、
行わなければならない準備とはなんだ?
本当に竜の牙の壊滅だけを望むのであれば早々に共和国に協力を願うべきだ。
陰でコソコソと行動する必要はないはず。
「何故、すぐに共和国に向かわない?」
「まあ、理由は色々とあるけれど…いきなり協力してほしいと言っても聞いてもらえないんじゃないかな?って思うからだよ。」
…ああ、確かにな。
竜崎の言い分は分からないでもない。
敵か味方かも分からないような人物を簡単に受け入れることは出来ないからだ。
現に命を助けてもらった恩がある俺でも竜崎を信用しきれていない。
話し合う相手が国ともなればそれ相応の段取りは必要になるだろう。
「つまり、共和国と話し合うための準備を進めているということか?」
「それもあるね。」
…それも、だと?
「僕達にも色々と都合があるんだよ。米倉宗一郎と交渉すること自体は決して難しくはないんだ。僕が直接話し合いに行けば交渉は必ず成功するからね。だけどそれだけだと足りないんだよ。」
…足りない?
…共和国の力だけでは足りないだと?
俺を大きく上回る実力を感じさせる竜崎が、
共和国の力を借りてもまだ竜の牙を倒せないと考えているのか?
「竜の牙とはそれほどの力を持っているのか?」
竜の牙に対して直接的な戦闘を経験したことがない俺は竜の牙の実力を知らない。
ミッドガルム東部において竜の牙に襲われたのが、
俺にとって竜の牙との初めての戦闘だったからだ。
だから俺はまだ竜の牙の本当の実力を知らないでいる。
「お前はどこまでの戦力を求めているんだ?」
「どうだろうね?それは僕も知りたいことだけど。どの程度の戦力が揃えば竜の牙を潰せるんだろうか?」
………。
どうやら俺の質問が間違っていたようだな。
「逆に問う。共和国が協力しても竜の牙は潰せないのか?」
「おそらく…いや、間違いなく足りないだろうね。」
「何故そう思う?」
「何故?それは簡単な理由だよ。過去から現在に至るまで共和国は竜の牙を壊滅出来ないでいるからだ。共和国の戦力を持ってしても竜の牙は倒せない。それはすでに証明されている事実だよ。」
………。
…なるほどな。
竜崎の言い分は最もだと思う。
確かに竜の牙の存在は十年以上も昔から確認されているにも関わらず、
壊滅することなく今だに活動を続けているのだからな。
その事実を考えるだけでも、
竜の牙という組織が共和国と互角の実力を持つのは明らかであり、
決して侮れない存在であるのは間違いない。
竜崎ほどの力があっても足りず。
共和国の力を得ても足りない。
それほど危険な相手。
…それが竜の牙か。
改めて認識する竜の牙という存在。
それほどの強敵と対抗する為に、
竜崎は何かを企んでいるのだろうか?
「竜崎の部隊と共和国の軍。そこにお前は何を加えようとしている?」
「残念だけど、それはまだ言えないね。」
核心に近づく為に問い掛けてみたのだが竜崎は答えを避けていた。
「それは僕達にとって切り札とも言える存在なんだよ。だから今はまだ誰にも知られるわけにはいかないんだ。」
…切り札、か。
質問には答えないとはっきりと告げる竜崎を眺めながら思考を進めてみる。
…何かを企んでいるのは間違いないようだな。
だが、その核心までは聞き出せないらしい。
力付く…とはいかないだろう。
竜崎と比べて俺の実力が劣っているのは事実であり、
力付くで情報を引き出すのは不可能としか思えない。
…今はまだ無理か。
駆け引きも出来ない。
交渉も不可能。
明らかに竜崎の方が立場的に優位にあり、
俺は与えられた情報の中で考えを進めるしかないからだ。
…第3の勢力に関しては俺では知りようもないな。
そもそも竜崎は竜の牙の敵対者と言う立場しか表明していない。
共和国の味方とも言えない相手から情報を聞き出すのは難しいように思える。
「今きみが考えるべきことは僕達の行動ではなくて、きみ自身がどうするかだ。」
…まあ、そうだな。
「天城総魔から受け継いだ力とどう向き合って、どう成長していくのか?それがきみの課題であり、きみが乗り越えるべき試練だと僕は思っている。」
…試練だと?
「だからね。きみが僕達のことを考えるのはそのあとで十分だ。今はきみ自身のことだけを考えれば良い。」
…俺が受け継いだ力か。
確かにそれも重要だな。
竜崎の言葉に誘導されているような気もするが、
竜崎は必要以上の情報を与えないように徹しているように見える。
…やはりこれ以上の情報を引き出すのは無理か。
今は国境を越えて共和国に戻る事が優先だ。
会話を終えて国境超えに集中する。
再び沈黙が訪れて、
黙々と歩みを進めることになった。




