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THE WORLD  作者: SEASONS
4月20日
1553/1593

指揮官の不在

《サイド:リン・ラディッシュ》



「…さて、と。私達はこのまま撤退するけれど、あなた達はもう少しここで頑張りなさい。もうすぐ近隣の町からの援軍も到着するはずよ。すでにデルベスタの部隊が数分の距離まで接近しているし、南部の各町からの援軍もすぐそこまで接近してるから、防戦を維持して援軍を待てばセルビナ軍を押さえられるはずよ。」



…デルベスタの部隊?


…南部の各町?



言われた言葉の意味はすぐに理解出来るけれど。


どうして共和国軍の情報を持っているのかは理解できなかったわ。



「貴女は何者なの?」



面識のない女性に問いかけてみたことで、

女性は微笑みながら答えてくれたのよ。



「ふぅ…。本当に何も知らないのね?私はウィッチクイーンよ。」


「な…っ!?」


「名前くらいは聞いたことがあるんじゃない?」



…名前どころか、色々と噂は聞いているわ。



ウィッチクイーンの顔は知らなかったけれど。


どういう人物かは知っているつもりよ。



「あ、貴女がっ!?」



敵だと聞いていたはずの存在のウィッチクイーンが、

何故か共和国軍に味方してくれているの。


その事実に混乱する私にクイーンが笑顔で告げてくる。



「もう一度言うわよ。私を信じて防戦を行いなさい。ちゃんと耐えれば援軍が到着するわ。」


「…本当に来るの?」


「ええ、10分もかからないでしょうね。」



すぐに来ると答えてから、

クイーンは前方を走る自軍に視線を戻したのよ。



「縁があったらまた会いましょう。」



………。



走り去るクイーンの背中を眺めながら頭を悩ませる。



背後からはセルビナ軍が迫る状況で、

正面には敵であるはずの竜の牙がいるのよ?



この状況で信じられるのは自分の直感だけよね?



…捨て駒にされる可能性が否定出来ないけれど。



どのみち全滅寸前だったことに変わりはないんだから、

ウィッチクイーンの言葉を信じてみるのも悪くないかしら?



クイーンの残した言葉が真実であれば、

すぐに援軍が到着するはずよ。



だけどもしも嘘だったら、

部隊が全滅してしまうでしょうね。



…とは言え。



ウィッチクイーンが来なければすでに全滅していたかもしれないわ。



その事実を考えれば、

信じて裏切られたとしても結果は同じだと思うのよ。



仮にここで全滅したとしても、

そもそもの結果は同じだと思う。



…なら。



信じて援軍を待つのが最良の判断でしょうね。



ここで逃げれば部隊は助かるけれど。


町は壊滅してしまうのよ。



だけどもしも本当に援軍が来るとすれば、

ここでセルビナを抑えれば町への被害は防げるわ。



…だったら答えなんて考えるまでもないわね。



深く深呼吸を繰り返してから全部隊に指示を出すことにしたの。



「全軍停止っ!反転攻勢!!セルビナ軍を限界まで足止めするわよっ!!」



私の指示に従って残存する部隊が一斉に動きを止めてくれたわ。



その数は当初と比べて僅かに減少してるけれど。


それでも4000人以上の戦力が残っているように見える。



…セルビナ軍の残存数は、目測でおよそ2万弱かしら?



クイーンの攻撃によって1万前後の死者を出したということよ。



それでも2万対4千ではまともな戦いにはならないけれど。


こちらは国内の地形を考慮できるはず。



…上手く動ければ、足止めくらいは出来るはずなのよ。



報告を受けた時点での5万の大部隊と比べれば、

今の疲弊した2万の軍を足止めするのは決して不可能じゃないはず。



…って、あれ?



…国境警備隊の中に北条辰雄がいない?



まさかとは思うけれど。



…もしも死亡したとなると、鞍馬信彦の生存が重要になるわね。



そもそも私は指揮官でも何でもないのよ。



部隊を管理することは出来ても、

戦局を見据えて指揮を執るなんて小難しいことは出来ないわ。



だから大局を見ることが出来る北条辰雄に部隊を預けようと思っていたのに、

肝心の北条辰雄の姿が見えないことに気付いて焦りを感じてしまったの。



…せめて鞍馬信彦が生きていれば有り難いんだけど。



合流できた国境警備隊に駆け寄って鞍馬信彦がいるかどうかを確認してみるとね。


捜していた人物はすぐに見つかったわ。



「鞍馬君。北条司令官は!?」


「…も、申し訳ありませんっ。」



確認する私に気付いた鞍馬信彦は、

申し訳なさそうな表情で頭を下げて謝罪してきたのよ。



「司令官は戦場で倒れられ、先程の部隊によって連れ去られてしまいました。」



…は?



「それって…攫われたっていうこと?」


「あ…いえ、話の流れからして治療を目的としている様子でした。」



…治療?



「重傷を負って倒れられたからなのですが…救助はしても生存の可能性は絶望的という話でした。」



…ああ、やっぱり。


…北条辰雄は倒れたのね。



運ばれていくところまでは確認していなかったけれど。


すぐ側で行動していた鞍馬信彦はその光景を目撃していたようね。



「本来なら我々が司令官を救出するべきだとは思ったのですが、すでに魔力も底をついて治療さえも出来ない現状では彼女達に委ねるべきかと判断して、あえて手を出さずに司令官を託しました。」



…つまり。



北条辰雄の身柄はウィッチクイーンに預けたということね。



それはそれで仕方がないとは思うけれど。


こうなると部隊の指揮をとれるのが鞍馬信彦しかいないということになるわ。



だけど鞍馬信彦の体に魔力は感じられないし、

ルーンさえも失って、

セルビナ軍が落とした剣を拾って辛うじて戦っているような状態なのよ。



満身創痍の体は急いで治療を行わなければ命の危険さえ感じさせるほどの重傷にも見える。



…こうなると。



頼みの綱の鞍馬信彦でさえも危険な状況ね。



現在の状況でまともに部隊の指揮を取れる人物は鞍馬信彦しか考えられないのに。


その鞍馬信彦も瀕死の重傷なのよ。



…ふう。



こっそりため息を吐いてしまう。



…これはもう私自身の手で指揮をとるしかないわね。



戦争という大舞台において指揮をとるのは決して簡単な話ではないわ。



普段から訓練を詰んでいる人物ならともかく、

一学園の学園長でしかない私にこれほどの大役を務められる自信なんてないのよ。



…だけどそれでも。



やるしかないの。



指揮官として戦場に立った以上は泣き言なんて言ってる暇はないわ。



…私の手で敵を迎え討つ!!



そのために鞍馬信彦に指示を出すことにしたのよ。



「後方に下がりなさい。どこまで出来るか分からないけれど、私が時間を稼ぐから、その間に治療を進めて動けるようになりなさい。」



治療を指示して国境警備隊の兵士達を後方へと避難させる。



そして自ら前線に立って迫り来るセルビナ軍に立ちはだかることにしたのよ。



「援軍が来るまで、何としてでも持ちこたえるわよっ!!」



敵の数は当初の半数以下。


すでに国境警備隊を救出した現状で無理に突撃する必要もないわ。



「徹底的に防戦に専念するわよ!援軍が来るまで持ちこたえなさいっ!!」



残る仲間達に指示をだす。



そうして守りを固める私達の部隊に残存するセルビナ軍が突撃を始めたの。



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