炎の使い手
「な、何っ?何の炎なのっ!?」
突如として夜空に現れた巨大な炎。
正体不明の攻撃に戸惑ってしまったわ。
出現した炎の数は合計7つ。
闇夜を煌々と照らし出す巨大な炎は、
現れたと思った次の瞬間に私達の部隊の周辺を取り囲むセルビナ軍の部隊へと一斉に降り注いだのよ。
…嘘っ!?冗談でしょ!?
空から墜ちる7つの炎は、まるで巨大な隕石のように。
あるいは噴火した溶岩が降り注ぐかのように。
セルビナ軍の部隊へと容赦なく襲いかかったのよ。
そして灼熱の炎を拡散させながら激しく燃え盛ったの。
…戦略級攻撃魔術っ!?
間違いなく禁呪に相当する攻撃だったわ。
夜空を切り裂くかのように立ち上る7つの火柱は、
共和国軍では起こせない大規模攻撃だったの。
それほどの圧倒的な攻撃によって、
セルビナ軍の数千の命が瞬く間にして消え去ったのよ。
「…ありえないわっ!!」
正直に言って馬鹿げてると思ってしまったのよ。
…だってそうでしょ?
これほどの大規模魔術を使える人物なんて
ここにいるはずがないからよ。
少なくとも私には無理だし。
部隊の中にもこれほど強力な魔術の使い手なんていないわ。
あくまでも寄せ集めの部隊なのよ?
主要な戦力はアストリアで全滅したし、
軍は大半がミッドガルム方面に派遣されてる。
そのせいで各町に残っている2軍以下の人材しか集められていないの。
だからね。
こんな極大魔術の使い手が部隊の中に紛れ込んでるはずがないのよ。
…一体、誰が!?
理解が追い付かない状況だったわ。
私達の部隊を取り囲んでいたセルビナ軍が壊滅したことも驚きだけど。
それ以上にこれほどの破壊力を持つ魔術が存在していることに恐怖を感じてしまったのよ。
「…誰が魔術をっ!?」
共和国にこれほどの使い手はいないはず。
もしもいるとすれば米倉元代表くらいだけど。
あの人の場合は炎じゃなくて雷を使うはずよ。
…どういうことなの!?
炎の使い手でここまでの威力を出せる魔術師なんて聞いたことがないわ。
そのせいで一人で悩んで立ち止まってしまったんだけど。
その行動が結果的には良かったのかもしれないわね。
戸惑う私の傍を、
不意に一人の女性が駆け抜けたの。
「ぼけっとしてると殺されるわよっ!!」
…はぁ?
…って、誰?
叱責しながら走り去る女性とすれ違う一瞬にね。
相手の顔を見てみたけれど。
私には見覚えのない人物だったわ。
…もしかしてこの女性が?
動揺を感じながらも、
すぐに女性の背中へと視線を向けてみる。
だけどもうすでに手遅れだったのか、
女性の勢いは止まらずにまっすぐにセルビナ軍へと向かって行ったのよ。
…くっ!
どこの誰かは知らないけれど。
とりあえず今は追い掛けるしかないわね!!
彼女が何者なのか分からないけれど。
それでもセルビナ軍の包囲網が崩れた事実を考慮して、
再び部隊に指示を出すことにしたのよ。
「全軍突撃再開っ!セルビナ軍が包囲網を立て直す前に国境警備隊を救出するわよっ!!」
何よりも救助を優先してセルビナ軍への突撃を選ぶ。
そんな私の指示を受けて、
残存する共和国軍の魔術師達は一斉に西へと駆け出したわ。
「駆け抜けろーーっ!!」
「一気に進めーーーっ!!!」
指示通りにセルビナ軍を攻めてくれたの。
退路が開いても逃げ出さずに戦い続けることを選んでくれた仲間達に感謝しながら、
私も戦場を走り続ける。
…あの女性を追えばセルビナ軍を突き抜けられるのかも?
正体不明の存在だけど。
先程の炎が彼女による攻撃だということは直感的に理解できたから。
…私達を避けてセルビナ軍を攻撃した以上は敵じゃないはず!
たぶんそうだと自分に言い聞かせながら、
女性のあとを追って戦闘を再開したのよ。




