砕けるパン
《サイド:鈴置美春》
…ったく~!
「一々、うるさいのよっ!!」
怒鳴りながら、
つかみ取ったパンを一閃してみる。
その次の瞬間にね。
『ゴスッ!!!!』と鈍い音を立てて、
千夏の頭にパンが激突したわ。
「にょわぁぁぁぁぁぁっ!?」
謎の奇声を上げた千夏は泣きべそをかいて頭を抱えてる。
…可哀想と思わなくもないけれど。
だけどここは『無視』一択よ。
「…ちょ、ちょっと美春?今のはさすがに酷くない?」
「ええ、そうね。パンが無駄になるから行儀が悪いわね。ごめんなさい。心から反省しているわ。」
「え…?そっちなのっ!?」
驚く様子の千夏だけふど。
さすがにカチカチに固いパンの一撃は、
私が思う以上に痛かったようね。
パンで叩いた千夏のおでこはほんのりと赤く染まっていたのよ。
「…普通に痛いんだけど?」
…まあ、そうでしょうね。
「そうなるように選んだんだから当然でしょ?」
「…当然、なの!?」
瞳に涙を浮かべながらブツブツと抗議する千夏だけどね。
その程度で許してあげるほど私は優しくないわよ?
「黙って落ち着くのと、騒いで叩かれるのと、どっちが良い?」
「…ごめんなさい。静かにします。」
再びパンを構えながら告げてみると千夏は素直に謝ってきたわ。
…ふう。
これで少しは静かになるわね。
「ったく。最初から大人しくしていればいいのよ。」
しゅんと俯く千夏のおでこをさすりながら、
回復魔術を発動させてあげることにしたの。
微かな光を放って消え去る痛み。
おでこの痛みが消えたことで、
千夏はゆっくりと顔をあげたわ。
そしてまた言わなくて良いことを言ってしまうの。
「アメとムチみたいな感じ?悪いけどそういう趣味はちょっと…?」
…はあ?
いたずらっぽく微笑む千夏に再び無言でパンを放つ。
「にぃゃぁぁぁぁぁっ!?」
猫が悲鳴をあげるような声で叫んだ千夏は再び瞳に涙を浮かべていたわ。
「うぅ~。ちょっと言ってみただけなのに〜。美春、酷い…。」
再び赤く染まるおでこだけど。
今度は治療してあげない。
その代わりに囁いてあげることにしたの。
「もう一度喋ったら今度はかなり痛いわよ?」
「うぅぅぅ…。」
本気でパンを構える私の冷たい視線を浴びた千夏は大人しく黙り込んでる。
淋しそうな表情でおでこをさする姿には哀愁すら漂っているわね。
それでも睨み続けていると。
「…暴力女ぁぁぁぁぁ…。」
千夏は小さくため息を吐いてから、
微かな声で反論してきたのよ。
…ふぅ。
もちろん今の発言もしっかり聞き取っていたわ。
だからね。
宣言通りに全力でパンを握りこんだのよ。
その直後に『ゴスッッッッ!!!!』と鳴り響く打撃音。
手加減抜きで握りこんだパンは、
千夏の後頭部で激しい音を立てながら砕け散ってしまったわ。
「っっっ!!!!??????」
…うんうん。
どうやら今回は相当痛かったようね。
かなりの固さを持っていたパンが粉々にくだけちるほどの一撃を受けた千夏は、
悲鳴もあげられずにテーブルに倒れ込んでしまったのよ。
「………。」
………。
強制的に沈黙させられたことで身動き一つとれないみたい。
もしかしたら気を失っているのかもしれないけれど。
心配する周囲の目を気にせずに、
改めて黒柳所長に話しかけることにしたの。
「馬鹿はほっといて、話を続けてください。」
あっさりと言い切る私の冷静ぶりに黒柳所長や御堂先輩達のほうが戸惑いを感じている様子だけれど。
私は全くと言っていいほど気にしないわ。
考えるだけ時間の無駄だからよ。
「いつものことですから。」
さらりと告げてみる。
実際に常日頃からこんなことを繰り返しているから、
私としてはいまさらっていう感じでしかないのよ。
だけど黒柳所長は驚いている様子ね。
「…どんな関係なんだ?」
疑問を感じている様子だけど。
「いつもこうなのかい?」
御堂先輩も疑問を感じていたみたい。
でもね?
驚く御堂先輩の隣にいる常盤さんは少し違った感想を抱いている様子だったわ。
「うわぁ~。パンって砕けるんですね。」
…ああ、確かに?
私もパンが砕けるのは初めて見た気がするわ。
砕けたパンのかけらを眺めてる常盤さんの隣では、
栗原さんも砕け散ったパンを眺めて小さく体を震わせている姿が見える。
「うっわ~。痛そ~。」
…うん、まあ、全力でやっちゃったしね。
私が言うのもどうかと思うけど。
かなり痛かったんじゃないかな?
「「………。」」
西園寺さんと藤沢さんも何かを言いたそうな表情で視線を向けているけれど。
「千夏はちゃんとしつけておきますので、気にしないで下さい。」
私としては飼い犬を躾ける程度の軽い気持ちでしかないのよ。
だから気を失った千夏を放置することになんの罪悪感もないんだけど。
私以外の誰もが疑問を感じてる様子ね。
それでも誰も何も言わなかったわ。
「ま、まあ良いか…。」
さりげなく冷や汗を流しながら追求を諦めた黒柳所長は素直に会議を進めることにしてくれたのよ。




