もう一人
《サイド:長野淳弥》
…まあ、あれだな。
芹澤啓輔に関してはともかくとして、だ。
疑問はもう一つある。
「もう一人は誰ですか?」
「ああ、もう一人に関してだが、神崎慶一郎が志願してきたのだ。彼も竜の牙には苦い思い出があるからな。過去との決別の為にも今回の戦いで役に立ちたいと考えたのだろう。」
…へえ。
…神崎慶一郎か。
神崎の名前を聞いて、ほっと息を吐いてしまった。
…すっかり忘れていたが、もう一人いたんだな。
治癒能力に関して優秀な人材が、だ。
神崎慶一郎は治癒魔術研究室の代表であり、
国内において1、2を争う優秀な魔術医師になる。
常盤沙織の師であり、
栗原薫以上の魔術医師でもあるからな。
…神崎慶一郎がいるなら、安心して戦える。
優秀な魔術医師がいるなら、
そこそこ無茶をしても死なずにすむだろう。
素直に有り難い存在だ。
…これで里沙の穴埋めは十分だな。
神崎慶一郎が一人増えるだけでも戦略の幅は大きく広がるからだ。
「歓迎すべき戦力ですね。」
「ああ、俺もそう思っている。」
喜ぶ俺を見て米倉宗一郎も笑顔で頷いてくれていた。
「慶一郎がいる戦闘といない戦闘では立てられる戦略が大きく変わってくるからな。」
…ああ、確かに。
米倉宗一郎も俺と同じ考えを持っているようだ。
…これでひとまず安心だな。
…あとは竜の牙をどうやって追い詰めるかだ。
「とりあえず、これからどうするんですか?」
「まだ他にもやるべきことがあるからな。1時間ほどしてから出発したいと考えている。すでに馬車の準備は進めているから移動に関しては心配しなくていい。」
…1時間後か。
何気なく室内の時計に視線を向けてみる。
…もうすぐ8時だな。
「今から1時間後として午後9時頃に校門に集合しよう。そこで俺と慶一郎と長野君と芹澤君と矢野君。そして問題の彼を含めた6人でグランバニアに向かうことになる。」
…問題児の芹澤啓輔を含めた6人か。
狭い馬車の中で暴れられると面倒だが、
そこまで非常識な人間ではなかったはずだ。
…まあ、男が里沙に近づかなければ問題にはならないだろう。
もちろん俺としては里沙に近づく気は一切ない。
芹澤啓輔には関わらないのが一番だからな。
「それでは準備を整えてから校門に向かいま
す。」
「うむ。俺も出来るだけ急ぐが、きみ達はその間に夕食を済ませておくといい。残念ながら食堂は崩壊したが、代わりに第1検定会場で配給を行うように手配してある。今からでも十分に間に合うはずだ。ゆっくりと食事をとって、少しでも長く体を休めておくといい。」
…第1か。
まあ、現状が現状だからな。
検定試験を受けたいと思うようなやつはいないだろう。
…と言うか。
そもそも会場を使いたいと思う生徒なんてほとんどいないはずだ。
特に第1には1位から99位までしか所属してないからな。
その中でも特風を含む有力な生徒はほぼ全員が戦争に参加してる状態だ。
未使用の会場を放置するくらいなら、
食堂の代わりとして開放したほうが有効的なのは間違いないだろう。
「…だそうだが、里沙と百花はどうする?」
食欲があるかどうかは知らないが、
今のうちに食べておかないと次にいつ食事が出来るか分からないからな。
「時間のある間に食事を済ませたほうが良いぞ。」
「ん~、そうね〜?」
「私はどちらでも良いわ。」
百花としては里沙の判断に任せるつもらしい。
「なら、行くか?」
「お~け~」
「ええ」
出口に向かう俺を追って里沙と百花も動き出す。
「それでは失礼します。」
「またあとで…。」
礼儀正しく頭を下げる百花に手を引かれながら里沙も頭を下げていた。
そんな二人と共に、
ひとまず検定会場に向かって移動することになった。




