ちょっぴり嫌な気持ちに
《サイド:常磐成美》
夕食の準備ができたということで、
私達は休憩をしていたお部屋から出ることになりました。
…次はどこに行くのかな?
知らない場所なので不安を感じてしまうんですけど。
一人きりというわけではないので怖くはありません。
「数分で着くからね。」
「は、はいっ。」
御堂さんの案内を受けながら船の中を歩続けます。
今でもまだ船は揺れ続けているのでまっすぐに歩くのは難しいんですけど。
栗原さんのお薬のおかげでしょうか?
苦しいとか気持ち悪いという感じはありません。
「二人共、大丈夫かい?」
…あ、はい。
私達を心配して声をかけてくれる御堂さんに返事をしようとしたんですけど。
その瞬間に船が大きく揺れました。
「きゃああああぁぁっ!!!」
…あぅぅぅぅ~っ!?
急な揺れのせいでしゃがみ込んでしまった栗原さんのすぐ傍で、
私も船の揺れに耐え切れずに通路に倒れそうになってしまったんです。
…ですが。
「おっと…っ!」
御堂さんが支えてくれたおかげで倒れずにすみました。
「…す、すみません。」
慌てて起き上がろうとしたんですけど。
その瞬間に。
もう一度、船が大きく揺れました。
「ちょっ!?揺れすぎっ!!」
…ゃ、ぁっ!?
通路に座り込んで慌てる栗原さんに続いて、
私も御堂さんから離れてしまって、
通路にしゃがみこんでしまいました。
「…うわっ!?」
御堂さんでさえも壁に手を付けて何とか体を支えている状況です。
「ちょっ!?この船、沈むんじゃない!?」
「は…ははっ。」
不安を言葉にする栗原さんを見て、
御堂さんは困ったように笑っています。
「まだ大丈夫だと思うよ。この船はかなりの大きさがあるし。船員も海を熟知している海軍だから無理はしないだろうしね。座礁でもしない限り沈む心配はないと思うよ。」
座礁…って何でしょうか?
難しい言葉はわかりませんけれど。
心配しなくても大丈夫だと言った御堂さんは、
しゃがみ込んでしまった私と栗原さんに手を差し延べてくれました。
「立てるかい?会議室はすぐそこだから、もう少しだけ頑張ってくれないかな?」
「は…はい。」
「ふう…。とりあえずは…って感じよね〜。」
ひとまず揺れが収まったことでゆっくりと立ち上がった私と栗原さんは、
先導してくれる御堂さんの後を追って先を急ぐことにしました。
「さあ、行こう。」
「はいっ。」
歩きだす御堂さんのあとを追いかけます。
そうしてしばらく通路を進んで行くと。
見たことのない二人の女性が通路の反対側から近付いて来る姿が見えました。
…えっと?
学園の生徒なのかな?
制服を着ているので多分そうだと思います。
お姉ちゃんの制服と同じ形だからです。
「やあ、鈴置さん。」
揺れる船の通路を安全に進むために、
壁に手をあてながらゆっくりと進む二人の女性に御堂さんが話し掛けていました。
「久し振り…というべきかな?」
「ええ、そうですね。お久しぶりです。御堂先輩。」
御堂さんに視線を向けた鈴置さん?が、
そっと頭を下げて一礼しています。
そして挨拶をしてくれた鈴置さんの隣で、
もう一人の女性が元気な笑顔を浮かべている姿が見えました。
「ああ~っ!!先輩っ!会いたかったです~!」
「ちょっと、千夏!はしゃぐと危ないわよ!?」
忠告をされても迷わずに御堂さんに駆け寄っています。
そしてそのまま御堂さんに抱き着いた千夏さん?の行動を見た瞬間に。
…えっと?
何故かちょっぴり嫌な気持ちを感じてしまいました。
…うぅ~?
自分でもよく分かりませんけれど。
何となく許せないような…不思議な気持ちになってしまったんです。
…どうしてかな?
お姉ちゃん以外の人が御堂さんに抱き着いているから…でしょうか?
理由は分かりませんけれど。
少しだけそんな気がしました。
「ちょっと千夏!?御堂先輩が困ってるでしょっ!」
鈴置さんが力付くで引き離しています。
「…ん〜、もう!美春ってば~。自分がそうしたいからって邪魔しないでよね~?」
「はあ?悪いけど、千夏と一緒にしないでくれる?」
鈴置さんは冷たい視線を向けていました。
怒っているのでしょうか?
よく分かりませんけれど。
鈴置さんのおかげで御堂さんは開放してもらえたようです。
「う~ん。本当に美春ってば、御堂先輩の良さが分からないなんて、高望みしすぎじゃない?」
「あのね?今はそういう問題じゃないでしょ?」
「あははは…っ。」
呆れた感じの表情でため息を吐く鈴置さん達のやり取りを、
御堂さんは笑顔で見守っていました。
「二人とも元気そうで何よりだね。町でも色々とあったみたいだから、心配していたんだけど、また二人に出会えて良かったよ。」
「あ〜、いえ、まあ…?」
「ありがとうございますっ!」
鈴置さんは申し訳なさそうな雰囲気ですけど。
千夏さん?は笑顔を浮かべていました。
「学園と町での騒動の話は聞きましたけど、先輩達は大変だったそうですね。」
「私達は家の中に閉じこもっていたから、全然関係ないですけどね~。」
二人はお家にいたから学園の騒動に巻き込まれなかったそうです。
「もしかして鈴置さんと森下さんも会議室に向かう途中かい?」
「あ、はい。そうです。私と千夏の二人で会議室に来るように言われましたので…。」
「たぶん私はおまけですけどね~。」
…おまけ?
…と、言うことは?
本来は鈴置さんが呼ばれたという意味でしょうか?
「そうならないように努力すれば良いのよ。」
自分は関係ないという感じの森下さんを見ていた美春さんが冷ややかに告げています。
「ちゃんとしなさい。」
「うぅ~。美春ってば…さっきから私に冷たくない?」
「馬鹿ばっかり言ってるからよ。もっともっとしっかりしなさい!」
突き放すように答える美春さんでしたけど。
何故か森下さんは嬉しそうに笑っていました。
「あはっ!美春ってば優しいわね~。」
「はぁ?どこをどう解釈すればそうなるのよ?」
「私のことを心配してくれてるんでしょ?それくらい分かるわよ~。」
「あのね〜?そう思うのならもっとしっかりしなさいよね…。」
ため息を吐きながらも、
鈴置さんは森下さんと手を繋いでいます。
「さっさと行くわよ。」
「はいはい♪」
「『はい』は一回で良いのよ。」
「は~い♪」
素直に意見を聞き入れる森下さんはすごく楽しそうです。
二人がとっても仲良しなのは見ているだけで伝わってきました。
…いいな~。
…羨ましいな~。
ずっと一人ぼっちで友達がいなかった私は家族と翔子さんだけが知り合いの全てです。
…友達っていいな~。
なんて思ってしまった私の気持ちが伝わったのでしょうか?
「成美ちゃんの友達ならここにいるわよ~。」
栗原さんが私を抱きしめてくれたんです。
「私がいるのに、寂しいなんて言わせないわよ。」
…はぅぅぅ。
抱きしめてくれる栗原さんの笑顔がとても嬉しくて、
それだけで幸せ一杯な気持ちになっちゃいます。
「あ、ありがとうございますっ♪」
「良いの、良いの。行くわよ、成美ちゃん。」
「はいっ♪」
二人で手をつなぎながら会議室に向かうことになりました。
…嬉しいです。
こうして誰かと一緒にいられることが、
本当に嬉しいと思えるんです。
「ははっ。二人は仲がいいね。」
御堂さんは笑顔で見守ってくれていました。
「もうすぐそこだからね。会議室に着くよ。」
目的地は近いそうです。
通路を曲がる御堂さんの先に視線を向けてみると、
すでにお部屋に入ろうとしている鈴置さんと森下さんの姿が見えました。
…と言うことは?
あそこが会議室なのかな?
「あそこが目的地だよ。」
やっぱりそうみたいです。
「行こうか。」
「はいっ!」
「おっけ〜。」
歩みを進めていく御堂さんのあとを追って、
私と栗原さんも会議室に移動しました。




