誓いのキス
「あらあら♪乃絵瑠ちゃんもとうとうその気になってくれたのね♪」
…は?
何故か急にいかがわしい目で私を見つめてきたのよ。
…はあ。
…さっきまでの雰囲気はどこにいったの?
心の底から疑問を感じたりもするけれど。
ひとまずそんなことはどうでもいいわね。
「そんな趣味は有りませんっ!!断固としてお断りしますっ!」
全力で否定し続けてるのに、
美咲さんの笑顔は崩れないのよ。
「うふふっ♪本当に乃絵瑠ちゃんは面白い子ね♪」
全力で拒絶されているのに落ち込んだ様子のかけらも感じられない精神力だけは尊敬に値すると思うわ。
…と言うか。
むしろそれくらいじゃないと気持ちの切り替えなんて出来ないのかも?
自由気ままで危険な裏の性格と、
清楚で優しくて完璧な表の性格。
そして威圧感さえ感じるほどの真剣な表情を持つ美咲さん。
もしかしたら他にもまだ隠された顔があるのかも知れないけれど。
それらを上手く使い分ける為には、
それ相応の精神力が必要なのかも知れないわ。
…う~ん。
…美咲さんって不思議な人かも?
他にはいないと思えるほど個性的な人だと思うのよ。
…尊敬は出来るけど、信用は出来ない感じかな?
複雑な感情だけど信じてみようとは思ってる。
騙されたと思って信じてみようと思うのよ。
たぶん悪い人じゃないと思うから。
信じてみようと思うの。
「これからも、よろしくお願いします。」
「ふふっ。それじゃあ、改めて誓いのキスをしてもらおうかしら♪」
…いやいや。
…結婚式じゃないんだから。
誓いのキスっていう表現は本気で止めてほしいかも。
なんてね。
そんなふうにね。
心から願ってしまうけれど。
美咲さんは当然のことのように瞳を閉じて私に唇を差し出してくるのよ。
…ぅぅ。
これって今度は私からしろっていう意味よね?
それはちょっと、というか…ものすごく恥ずかしいわ。
…あぅあぅっ。
顔が真っ赤になっているのが自分でも分かるのよ。
だけど約束は約束だから無視は出来ないわよね?
…ちょっとだけ。
…ちょっとだけ。
何度も念じながら、
テーブル越しに美咲さんに顔を近付けてみる。
…うぅぅぅっ!
恥ずかし過ぎて震える体。
瞳を閉じる美咲さんとの距離はあと僅か数センチ。
…ええいっ!
…あとは野となれっ!!!
唇をきつく閉じながら、
やけくそ気味に美咲さんと唇を重ね合わせた次の瞬間に。
「………。」
美咲さんが私の首に腕を回して、
がっちりと私を捕らえたのよ。
…うぁぁぁっ!!!!!!
身動きが取れない状況になってしまったの。
下手に暴れようものならテーブルの上の料理が散乱しかねないから。
…う、動けないっ!?
両腕でしっかりと私を捕らえて離さない美咲さんからは逃げたくても逃げれない状況なのよ。
そして、限界が訪れてしまうの。
…い、息が~っ!
唇を塞がれた状況だから呼吸なんて出来ないわ。
…く、苦しいっ!!!!
ひとまず鼻で呼吸をしようと思って意識を緩めた次の瞬間に、
ぬめりとした感触の『物体』が私の口の中に侵入してきたのよ。
…ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
美咲さんの舌が私の口の中を容赦なくうごめいてる。
…ゆ、油断したぁぁぁっっっっ!!
そうならないようにと思って全力で唇を閉じていたのに。
私の防衛はあっさりと突破されてしまったのよ。
「むぐぅ!!ふぬぅぅっ!!」
必死に抵抗を試みるけれど。
美咲さんは落ち着いた様子のままで動きを止める気配は一切ないの。
…ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!
終わらないキス。
うごめく舌。
ざらざらとした感触が口の中にあるのよ。
…長いっ!!
…長いってば~っ!!
早く放して欲しいと願うけれど。
美咲さんは許してくれなかったのよ。
延々と私の舌を。
歯を。
唾液を。
全てを楽しみ尽くして。
たっぷりと5分以上のキスをしてからようやく放してくれたの。
「ふぅ♪ご馳走さまでした♪♪」
超満足そうな笑顔だけど。
私としては汚された気がするだけだったわ。
色々な意味で悪魔に体を売り渡した気持ちになってしまったのよ。
…うぅ。
…キスが嫌いになるかも。
「今までの中で、乃絵瑠ちゃんが一番かしらね♪」
本気で落ち込んでしまう私の視線の先にいる美咲さんはとにかく楽しそうだったわ。
…もう、好きにして。
絶望で折れそうになる心を必死に維持しながら小さくため息を吐いてみる。
…うがいがしたい。
…って言うか。
お風呂に入って全てを洗い流したい気分かも。
思い出も何もかも忘れてしまいたいって思ったのよ。
…これっていつまで続くの?
そんな不安を感じてしまったことで、
気力を失って椅子に座り込んでしまったわ。
…もう無理。
…精神的に疲れる。
疲労を示す私の表情に反して、
幸せそうな表情の美咲さんがちょっぴり羨ましく思えるわね。
…はあ。
そんなふうに自分に正直に生きてみたいかも?
決してそういう趣味はいらないけど。
自由気ままな性格は羨ましいって思うのよ。
…何かもう、どうでもいいや。
諦めの心境でため息を吐く私を美咲さんは笑顔で見守ってる。
とても嬉しそうに。
とても楽しそうに。
とても幸せそうに。
妖しい微笑みで眺めているの。
…その笑顔が恐すぎ。
なんて思う私に優しく微笑んでから、
美咲さんは夕食を片付け始めたのよ。




