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THE WORLD  作者: SEASONS
4月20日
1513/1570

条件交渉

…我慢、我慢っ。



自信はないけれど。


まだ大丈夫だと自分に言い聞かせながら美咲さんと向き合ってみる。



「たぶん、大丈夫だと思いますけど…。お腹が空いたらその時は…お願いします。」



ひたすら控え目に抵抗してみたんだけどね。


美咲さんは相変わらず優しく微笑んでくれていたわ。



「ふふっ。それじゃあ、少しだけ残して、あとは片付けるわね。」



…え!?


…片づける?



「もしかして捨てるんですか!?」



せっかくのご馳走なのに。


ちゃんと食べれなかったことが申し訳ないくらいに沢山の料理が余ってるのよ。


一部の料理は手付かずで原形のまま残ってたりもするわ。



…さすがにこれはちょっと。



勿体ないって思ったんだけどね。



「大丈夫よ。心配しなくても捨てないわ。」



どうもそういうことじゃないみたい。



「余った料理はギルドの係員や宿直の担当者に食べてもらうことになってるから、ちゃんと全て食べてもらえるわ。」



…へ?


…他の人が食べるの?



美咲さんの説明を聞いてさらに疑問を感じてしまったのよ。



…私達の、食べ残しを、誰かに、あげるの?



まだ手を付けていない料理ならともかく。


中途半端に残ってる料理とかもあるわけで、

本当に全部食べてもらえるの?



そんな疑問を感じる私に、

美咲さんがようやく料理の理由を教えてくれたのよ。



「最初に言ったでしょ?この料理は残ることが前提で用意してるのよ。そして残った料理を他の人に提供することが、この部屋を借りる条件になっているの♪」



…はあ!?


…何それ?



何をどう交渉すればそんな条件になるの?



全っ然、意味が分からない条件よね?



「ふふっ。それじゃあ簡単に説明するわね。」



意味が分からないと思う私に、

一通りの流れを説明してくれるみたい。



「まず私のことなんだけど、受付の仕事は有給休暇をとって急遽きゅうきょ休みをとらせてもらったわ。ただ、突然『今日から休みたい』って言っても無理があるから、町から出ないことと、もしも人手が足りなくなった場合は仕事に復帰するように、っていう話になったの。」



…ああ、なるほど。



そこまでは私でも納得できるわ。



いきなり『休暇が欲しい』なんて言っても普通なら通るわけがないわよね?



体調が悪いとか、

何らかの緊急事態と言うならともかく。


美咲さんは絶好調だし、

ギルド内にいるわけだし?


それでも条件付きで許可が出たということは、

それだけ美咲さんがギルド内において絶大な信頼を勝ち得ているという証拠だと思うわ。



こんなふうに『多少の無理』が通るくらいには信頼を勝ち得ているんでしょうね。



…まあ、本当の美咲さんを知ったら、きっとみんなドン引きだと思うけど。



表の顔と裏の顔の差が激し過ぎるのよ。



…ギルドの人達が美咲さんの本性を知った時に、どんな表情を浮かべるのか見てみたい気がするかも?



そんなふうに考えていたらね。



「余計なことは考えなくて良いのよ♪乃絵瑠ちゃんっ♪」



美咲さんに笑顔で怒られてしまったわ。



…はぅぁ~。


…何で分かるの?



「ふふっ。乃絵瑠ちゃんの考えてることくらいなら、すぐに分かるわよ♪」



…え?


…うあああああああああああああっ!!!!!



『ゾゾゾゾッ…!!!』って再び駆け巡る悪寒を感じてしまって、

慌てて思考を打ち切ってしまう。



…もう何も考えないっ!!



必死に思考をかき消してみたの。



そんな私を眺める美咲さんは楽しそうに笑っているわ。



何て言うかもうね。


何もかもが見透かされている気がしてしまう瞬間だったのよ。



「まあ、それはそれとして。話を続けるわね♪」


「あ、はい。」



性格の話は横において、

休暇に関する説明をしてくれるみたい。



「とりあえず休暇はとれたんだけど。正直な話を言うと、別にどこかに出かけたいわけじゃないから、町どころか、そもそもギルドから出る必要もないのよ。」



…うん、まあ、確かに?



私はギルドに用があって来てるわけだし。


休暇を取ってもギルドから離れる理由がないのよね。



「だから提示された条件に対して私も条件を出したの。それが『この部屋を貸してほしい』っていう話に繋がるんだけど。乃絵瑠ちゃんの教育の為にギルドにいる必要があるから、どうせならって思って部屋を借りたのよ♪」



…ああ、なるほど。



休暇は欲しいけどギルドにはずっといるから部屋を貸してくれって言う話なのね。



美咲さんの休暇は遠出が目的じゃなくて私の教育が目的だから、

ギルドにいるほうが都合が良いって判断したみたい。



「それでね。通常なら『職員は半額で食事も出来る』んだけど、そこでもう一つ条件を加えたの♪それが料理の提供なんだけど。私が料理を作って、みんなの食事を用意することを条件に付けたらね。快く『無償』で部屋と食事を提供してくれるっていう話になったのよ♪」



…へぇ~。



美咲さんの説明を聞いて、

おおよその流れが理解出来たような気がしたわ。



要するにこの部屋を使えるのも、

食事が無料なのも、

全て美咲さんの交渉の賜物っていうことよ。



普段の行いが完璧だからこそ許される交渉だと思うわ。



きっと美咲さんの料理の才能をみんなが知っていて、

美咲さんの手料理が食べられるのならっていう理由で休暇が認められたんだと思う。



…う~ん。


…恐るべき二面性よね。



そんなふうに思った瞬間に。



「乃・絵・瑠・ちゃんっ♪♪♪」



…うわっ!?



必要以上にゆっくりと呼び掛けてくる美咲さんに見つめられてしまったのよ。


ただそれだけのことで全てを悟ってしまったわ。



…考えが読まれてるっ!?



あっさりと思考を見透かされてしまったのよ。



…なんで分かるのっ!?



「ふふっ♪」



動揺する私を眺めながら美咲さんは小さく笑ってる。



「…ぁぅぅ。ごめんなさい…」


「良いのよ♪その分、たっぷりと楽しませてもらうから♪♪」



…うあああああああああああぁぁぁっ!!!!



何度も何度も恐怖で震えてしまう体。


分かっていても美咲さんの言葉には恐怖を感じてしまうのよ。



「まあまあ、そういうわけでこの部屋は私が借りた部屋で、乃絵瑠ちゃんは私の部屋に泊まるということになるのよ♪」



…えええええ〜っとぉぉぉぉ?



…それって、やっぱり?


…美咲さんと同じ部屋ってことよね!?



『私の為の部屋』じゃなくて、

『私達の為の部屋』という話だったのよ。



…はあ。


…やっぱりそういう意味なのね。



『二人は一つ』という言葉に込められた部屋番号の意味は、

やっぱりそういうことだったのよ。



…予想はしてたけど。



それでも否定したい現実だったの。



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