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THE WORLD  作者: SEASONS
4月20日
1512/1564

何が違うの?

《サイド:文塚乃絵瑠》



「…ふう。満足♪満足っ♪」



ご機嫌な雰囲気でお皿の上にお箸を置いた美咲さんは、

私に向けてにっこりと微笑んでから両手を合わせていたわ。



「ご馳走様でしたっ♪」



すっごく幸せそうな表情でね。


椅子の背もたれにもたれ掛かって一息吐いているの。



その姿というか表情はね。


とても満足そうで、

とても楽しそうに見えるわ。



…だけど。



私の心境は真逆なのよ。



…はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。


…つ、疲れたぁぁぁ~。



満身創痍まんしんそういの疲労っていう感覚を生まれて初めて実感したわ。



今だかつて食事に対してこれほどの精神力を費やしたことはなかったと思うからよ。



…シンドイ。



心の底から込み上げてくる言葉はその一言だけだったわ。



まさしく『その一言に尽きる』ってやつよ。



…はあぁぁぁ。


…もう無理ぃぃぃぃ。



美咲さんの暴走はとどまることを知らず。


ありとあらゆる妨害を受けていたの。



もう思い出すのも嫌になるけどね。



ミニトマトの他にも私の手元から略奪された料理達は数知れず。


私が口を付けたものは容赦なく奪われていったわ。



そのうえで何て言うかもう、

嫌がらせとしか思えないような精神攻撃をひたすら受け続けていたのよ。



どう考えても私の体を狙っているとしか思えない発言の数々。


さらにはいつ要求されるか分からないキスの契約。



そんな絶望的な不安を抱えていたことで、

私の体は止まらない悪寒によって完全に冷え切っていたわ。



…さ、寒いぃぃぃぃぃぃ。



…って、言ってもね。



もちろん空調に問題なんてないわ。



むしろ暖かいくらいで、

室内はすごく居心地がいいはずなの。



なのにね?



恐怖に怯える体は精神的に病んでいたのよ。


自分でもどうしようもないくらい指先が震えているのが分かるくらいにね。



…はぅぅ。


…上手く掴めない。



震える手で持つお箸は思い通りに狙いが定まらないのよ。



目の前に並ぶ料理の数は食事を始める前と比べてそれほど変わってないと思う。


そして予想通りほとんど食べない美咲さんは、

私から奪い取った料理を食べることに集中していて、

直接お皿からとった料理はごく一部だったと思う。



…これって絶対に嫌がらせよね?



食べたくても食べれない状況だったのよ。



むしろ食べようとする度に美咲さんに略奪されることを考えると、

なかなかお箸が進まなかったわ。


それでも手を止める度に口移しを要求する美咲さんが怖くて、

無理矢理にでも食事を続けようとしていたんだけど。


その度に狙い済ました一撃によって私のお皿から料理が消えていくの。



その結果としてね。


全然、食べた気がしないという状況に陥ってしまったのよ。



…それでもね?


…これでもね?



耳を塞ぎたい心境になりながらも頑張って懸命に食事を続けていたわ。



それでもやっぱりこんな状況で満足に食事なんて出来るわけがないわよね?



…はぁぁぁ。



もう良いかな?



食欲が出ないから諦めることにしたわ。



恐怖と不安で心が満たされてしまって、

ご飯を食べる気になれなかったのよ。



美咲さんが食事を終えた今からなら、

ゆっくり食べられるのかもしれないけれど。


体はすでに食事を拒絶している感じがするの。



…もういいや、ってね。



気分は試合放棄だけど。



妥協と言うか、諦めと言うか?



精神的な疲労が激しすぎて、

これ以上食事を続ける気になんてなれなかったのよ。



「…ごちそうさまです。」


「あら?もう良いの?」



ゆっくりとお箸を置く私の様子を見ていた美咲さんが、

何の迷いも見せずに極々自然に問い掛けてくるのよ。



「あまり食べてなかったように見えたけれど…。乃絵瑠ちゃんのお口には合わなかったかしら?」



…いやいやいやいや。



そういう問題じゃないですよね?



何の悪びれもなく問い掛けてくる美咲さんの言葉に対して少なくない殺意を感じてしまう瞬間だったわ。



…でもね?



ただで用意してもらってるわけだし、

文句を言えるような立場じゃないことを思い出して抗議は諦めたの。



…一応、私の為に用意してくれてるわけだしね。



まだ怒るわけにはいかないわ。



それ相応の契約を交わしてる気はするけれど。


お世話になっている事実はちゃんと考えるべきだと思うのよ。



…今はまだ我慢出来る許容範囲内かな?



無理矢理自分に言い聞かせてみる。



そして料理に視線を戻してみる。



…まあ、料理自体はね。



すごく美味しかったと思う。



ほとんど食べてないけどね。



見た目の香りも味付けも完璧で、

私のちょっぴり変わった味覚?でも大満足の味だったのよ。



…って、言っても自分では普通だと信じてるけど。



味付けに関しては絶大な自信を持ってるのに誰も認めてくれないのよね〜。



…う~ん。


…未来には猛毒って言われたっけ?



不名誉な評価を思い出しながらもテーブルの上に並ぶご馳走に視線を向けてみる。



どの料理にもしてもね。


非の打ち所なんてなかったの。


何もかもが完璧なのよ。


そしてもちろん副作用はないみたい。



…私の味付けと何が違うの?



違いが分からないけれど。


私の体調に変化はないはず。



…これならみんな食べてくれるのかな?



なんて。


自分でも虚しく感じることを考えながら同時に考えてみる。



…もしかして?



私以外の人が食べたらお腹が痛くなったりして?



美咲さんが私と同じ味覚という可能性を否定できないのよ。



だけど。



…そんなわけないでしょうね。



馬鹿な考えは止めて、

美咲さんにお礼を言っておいたほうがいいわよね?



「料理はすごく美味しかったですよ。ただ食欲がないだけで…」


「あら?そうなの?」



控えめに答える私に美咲さんは微笑み続けてる。



「それなら良いけど、あとでお腹が空いたら教えてね?すぐに夜食を用意してあげるから♪」


「あ、はい…。」



無邪気に微笑む美咲さんの表情が果てしなく怖いけれど。


親切心で言ってくれてる言葉を否定する勇気なんて私にはなかったわ。




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