息がぴったり
《サイド:常磐成美》
…あぅ~。
栗原さんと御堂さんのお話は、
私には難しくてよく分かりませんでした。
複雑な状況ということもありますけど。
人間関係という部分が私にはさっぱり分からないからです。
お姉ちゃんと翔子さん以外に関しては全く知らない人のお話です。
…だけど。
栗原さんと御堂さんにも悲しい想い出があって、
その悲しみを乗り越えようとしていることだけは私にも十分伝わってきました。
…栗原さんのお兄さんと愛里さんってどんな人なのかな?
もっと色々な話を聞いてみたい気がしますけど。
その前に誰かがお部屋に近付いて来る足音が聞こえてきました。
「誰か来たのかな?」
御堂さんも足音に気づいたようですね。
席を立って扉に向かおうとしていたのですが、
御堂さんが近付く前に『コンコン』と扉が叩かれました。
「御堂君達…いるかしら?」
「あ、はい。います」
扉の向こうから問い掛けてきた声に御堂さんはすぐに返事をしていました。
そして御堂さんが扉を開くと、
部屋の外に立っていたのは先程通路ですれ違った女性の方でした。
「夕食の準備が整ったんだけど…そろそろ会議室に来てもらえるかしら?」
「あ、はい、分かりました。すぐに行きます。」
「ええ。それじゃあ、待ってるわね。」
御堂さんの返事を聞いたお姉さんは優しい微笑みを浮かべながら、
礼儀正しく一礼してから立ち去りました。
全くふらつかずに、
まっすぐに歩いているんです。
…すご〜い。
座っていても揺れを感じるのに、
まっすぐに歩けるのは不思議です。
「…さて、と。」
女性の後ろ姿を見送っていた御堂さんが、
私と栗原さんに振り返りました。
「それじゃあ、会議室に移動しようか。」
「あ…はい。」「ええ、そうね。」
立ち上がろうと思って返事をしてみると、
栗原さんと声が重なってしまいました。
「今、息がぴったりだったわね~。」
立ち上がるのも同時だった気がします。
だからでしょうか?
微笑む栗原さんの笑顔は、
先程までの真剣な表情と違ってとても優しい笑顔に戻っていました。
「難しい話はここまでにして、とりあえず美味しいご飯を食べに行きましょう。」
「はい♪」
さりげなく繋いでくれる栗原さんの優しさが嬉しく思えます。
ただそれだけのことに安らぎを感じてしまうんです。
「栗原さんの手…温かいです♪」
「そう?ありがとう。」
照れくさそうに微笑む栗原さんの笑顔を見ていると、
何だか元気になれるような気がします。
「えへへへ~。大好きです♪」
「………!?」
何気なく言ってみたんですけど。
栗原さんは一瞬だけ驚いたような顔をしてから、
思いっきり私の体を抱きしめてくれました。
「成美ちゃん可愛すぎ〜っ!!」
『ぎゅ~っ!』っと全力で抱きしめてくれたんです。
…あうぅ~。
抱きしめてもらうのは好きなんですけど。
ちょっぴり苦しいです。
…はうぅ~。
少しだけ息苦しく感じましたけど。
だからこそ翔子さんのことも思い出してしまいました。
…翔子さんも毎日抱きしめてくれていたから。
今の栗原さんと同じように、
いつも全力で私を抱きしめてくれていたんです。
「あ…ありがとうございます。」
当時の温もりを思い出しながら栗原さんに感謝しました。
私に優しくしてくれる栗原さんの存在が嬉しかったからです。
「抱きしめてもらえるのは嬉しいです。」
「ふふっ。成美ちゃんは私が守ってあげるからね!」
幸せを感じる私に栗原さんも微笑んでくれました。
歩きだす栗原さんの手は、
お姉ちゃんとも翔子さんとも違う温もりです。
だけどとても心地よく思えるのは同じでした。
「ありがとうございます♪」
「まっかせて!」
「ははっ。仲が良いね。」
私と栗原さんを見ていた御堂さんが笑っています。
ちょっと恥ずかしいですけど。
繋いだ手を離したくはありません。
「そろそろ行こうか。」
「はいっ!」
「は~い。」
先行して進む御堂さんのあとに続いて、
私達も会議室へ移動することになりました。




