退屈を紛らわせる方法
《サイド:冬月彩花》
…ふう。
…特にすることがないわね。
ぼんやりと眺めてみた時計の針は午後7時30分を指しているわ。
…退屈ね。
休憩を始めてからすでにそれなりの時間が過ぎているのよ。
夕食も終えて。
お風呂にも入り終えて。
特にすることがない退屈な時間。
なのに。
暗黒迷宮に挑めるほどの魔力はまだ戻っていないわ。
そもそも次に向かうべき7番目は奈々香が使用中だから入れないし。
今更6番目で遊んで来ようとも思わない。
だから今は大人しく体を休めることくらいしか出来ることがなかったのよ。
…こういう時に乃絵瑠がいれば、良い話し相手になるのに。
肝心の乃絵瑠は近くにいないどころか、
学園さえいない状況になるわ。
どこでどうしているのかは知らないし、
調べようとも思わないけれど。
数日間は帰ってこないでしょうね。
一応、それまで待っていてあげるつもりではいるけれど。
乃絵瑠がいないだけで随分と静かに感じてしまうわ。
…ふう。
何気なく周囲に視線を動かしてみる。
暗黒迷宮へと続く扉の前では、
今もまだ未来が倒れたままで目覚める気配はないわね。
そしてあずさもまだ帰ってこない状況で、
奈々香も戻ってこないのよ。
「何か退屈を紛らわせる方法がないかしら?」
………。
………。
考えてみたけれど、何も思いつかないわ。
「こうなるともう…。」
眠ってしまったほうが時間が過ぎるかもしれないわね。
ぼんやりと時計を眺めながらそんなことを考えていると。
「…あら?」
微かな魔力の波動を感じたのよ。
…この気配は?
間違えるはずがないわ。
この気配はあずさよ。
迷宮を脱出したのかしら?
それとも放り出されたのかしら?
どちらかは分からないけれど。
見に行こうとは思えたわ。
単に暇つぶしになるからだけど。
場合によっては話し相手になるでしょうしね。
とりあえずあずさを出迎えようと思って扉を開いてみたところで、
無意識のうちにため息を吐いてしまったのよ。
…あらあら。
…残念ね。
あずさは入口の前で倒れていたわ。
出口付近ではなくて入口で倒れていたのよ。
この状況から考えられる答えは一つ。
「失敗したのね…あずさ。」
意識を失って通路に倒れ込んでいるあずさの表情は蒼白で、
呼吸しているかどうかさえも疑わしく見えるわね。
…さすがに死んではいないでしょうけど。
微動だにしないあずさの姿を眺めながらゆっくりと歩み寄る。
そして膝をついて何も言わないあずさを抱き起こしてみたわ。
………。
あずさの体重は未来と違って随分と軽く感じるわね。
「…あずさ。」
そっと呼び掛ける私の言葉が聞こえたのか、
あずさの表情が一瞬だけ動いたように見えたのよ。
…やっぱり死んでるわけではなさそうね。
生きているのなら問題ないわ。
生きてさえいればなんとかなるからよ。
…とりあえず。
安静にさせておけば良いかしら?
未来が目覚めれば、
あずさの治療ができるでしょうし。
それまでは休ませておくことしかできないわ。
まあ、本当に危なそうだったら研究所の職員を呼び出してあげるけれど。
今はそこまでする必要はないでしょうね。
「他にすることもないから、ベッドまでは運んであげるわ。」
呟きながら休憩室に戻って、
あずさをベッドに寝かせた直後に。
「…あら?」
別の魔力の波動を感じたのよ。




