親よりも先に死ぬな
…ごめんね、みんな。
心で謝罪しながらルーンに願いを込めます。
…私の命と引き換えに。
共和国に勝利を。
…そして。
お兄ちゃんとお姉ちゃんの未来が…少しでも幸せでありますように。
両手を組み合わせて祈るように願いを込めることによって、
左手の人差し指にある指輪型のルーンが少しずつ光り始めました。
…お兄ちゃん、ごめんね。
私はここまでだけど。
みんなの願いを叶えてくれたら…嬉しいな。
私達の願いは竜の牙の壊滅です。
復讐と言っても良いと思いますけど。
本来の竜の牙を取り戻すことにあります。
…そのためになら。
私は私の命を捧げても悔いはありません。
…さよなら。
そっと瞳を閉じてルーンに最期を托しました。
残る魔力を。
そしてこの想いと願いを。
心も魂でさえも。
全てを力に変えて、私は私の命を捧げます。
「後悔はありません。」
…たった一つの願いの為に。
小さく呟いた私の声を、
傍にいた北条さんは聞き取っていたようでした。
「…死ぬつもりか?」
………。
どう答えるべきでしょうか?
決して死にたいわけではありませんので『はい』とは言い難いのですが、
『いいえ』と言える状況でもありません。
だから私は無言で頷きました。
もう何も言うことはないからです。
私は私の役目を果たすだけです。
…セルビナ軍は通しません。
それだけを願う私の前に北条さんが立ちました。
そして。
大地にルーンを突き立てたようです。
「…どうしたんですか?」
「いや、なに…少し思うことがあってな。」
…思うこと?
瞳を開いて北条さんと向き合う私に、
北条さんは優しく微笑んでくれていました。
そして温かな両手で、
私の手を包み込んでくれたんです。
…ですが、それだけです。
「………。」
北条さんは何も言いません。
それ以上何も言わなかったんです。
…どうしたのでしょうか?
何がしたいのかが分からなくて首をかしげていると。
「ふがいない父ですまない。」
何故か北条さんは悲しみをたたえた瞳で私を見つめながら謝罪してくれました。
そして私の体に狙いを定めたんです。
…何を?
何がしたいのか、
疑問を感じた次の瞬間に。
『ドスッ!!』と、
鈍い音と共に腹部に痛みを感じました。
…うっ!?
視線を下げてみると。
北条さんの拳が私のお腹に当てられていました。
「…どう、して…っ?」
薄れ行く意識の中で、
私は必死に北条さんの腕にしがみつきました。
「どう…して、ですか…っ!?他に、方法なんて…っ!」
「…言ったはずだ。」
必死に問い掛ける私に、
北条さんは淋しそうな表情を見せながら答えてくれたんです。
「親よりも先に死ぬな…とな。」
…それはっ!
…それでもっ!
「それは俺の役目だ。」
…えっ?
「生きろ雪。お前の未来だけは…父として俺が守り抜く。だからお前は生き延びろ。」
…そ、そんな?
…そんなのは嫌ですっ!
…私はもう!
…もう二度とっ!!
声にならない叫び。
二度も父を失いたくない願う私の想いは、
薄れていく意識と共に消えてしまいました。




