最後にしか使えない魔術
「ここから先は耐久戦だ!全員で円陣を組め!!」
指揮を執る北条さんは、
周囲を警戒しながら残存部隊を一箇所に集約させました。
「敵が魔術師であれば一カ所に集中するのは危険だが、敵が一般の軍隊なら無理に戦わずに防衛に集中すれば、ある程度の攻撃は堪え凌げるはずだ。」
…確かに。
北条さんの意見は私も正しいと思います。
広範囲で戦闘を行えばその分だけ各個撃破される可能性が高まりますが、
一カ所に集まって守りを固めれば時間を稼ぐことは可能です。
弓による射撃や投擲攻撃を風の魔術で弾く程度ならそれほど魔力も必要ありませんし、
行動範囲を狭めた分だけ一度に攻め込んで来るセルビナ軍の数も減少するからです。
…その反面として。
セルビナ軍がこの地を通り過ぎて共和国の内部に進軍してしまう可能性が高まってしまうのですが、
そこまで対応する余力なんてありません。
ほぼ全員の魔力が底を尽きかけて、
攻撃力が低下している私達に出来る最後の抵抗は時間稼ぎだけです。
だからこそ今は援軍の到着を信じて持ち堪えることしか出来ませんでした。
「本当に間に合うでしょうか?」
「…来ると信じるしかないな。」
疑問を感じる私に、
北条さんは優しく微笑んでくれています。
その間にも部隊を後退させる北条さんの決断によって、
セルビナ軍に取り囲まれていた包囲網がさらに狭まってしまいました。
その結果として。
私達はわずか数百メートルの範囲内に閉じ込められてしまったのです。
こうなるともう脱出なんて不可能です。
…敵の数もかなり減少したはずですけど。
それでも私達を取り囲んでいるセルビナ軍の数はおおよそ3万人強でしょうか。
私の攻撃と多くの方々の協力によって2万近い被害を与えただけでも、
戦果としては十分なのかもしれません。
私達と国境警備隊の合計4000人の部隊で2万もの軍を削れたのですから十分な戦果だとは思います。
…せめて万全な状態であれば。
そんなふうにも思ってしまいます。
一日中走り続けて雨の中を強行してきた反乱軍の疲労も。
戦争開始当初からセルビナ軍との戦闘を繰り返していた共和国軍も。
どちらも万全な状態とは言えなかったのですが、
愚痴を言ったところで現実は何もかわりません。
せめてセルビナ軍が様子見の斥候部隊であれば…とも思いますが、
周囲を取り囲んでいるのはセルビナの主力部隊です。
最初から総力戦を想定したセルビナ陸軍の全軍なのです。
対魔術師戦を考慮した布陣と戦略によって、
徐々に追い込まれてしまいました。
…それでも。
この場に海軍と陰陽師軍がいないのは唯一の救いでしょうか。
セルビナ全軍が集結していたとすれば、
私達だけでは時間稼ぎすら出来なかったと思います。
さすがにそこまで集めてしまうとセルビナ国内の防衛力が低下してしまうので、
全軍集結という手段は取れないと思いますけど。
…それでももう。
最悪の展開として私の命と引き換えにセルビナ軍を全滅させるくらいしか共和国を守る方法が思い浮かびません。
『自己犠牲魔術』
数日前にアストリアの正規軍を一掃した北条さんや美袋さんのように…です。
もちろんその攻撃は私の命が代償なのですが。
無差別攻撃とも言える自己犠牲魔術は、
私の周囲を守るみんなの命も奪ってしまうと思います。
…だから。
もしも使うとすれば、
それは私が最後の一人になった時だけです。
…もう、これしか方法がないよね?
術者の命と引き換えに発動する魔術の形は様々ですけれど。
お姉ちゃんが千里の瞳によって見通した北条真哉さんの最期と同じように。
心に込めた想いの分だけ起こせる最期の奇跡に、
私の全てを込めるつもりでいました。
…ただ、それでも。
もしも北条真哉さんが米倉美由紀さんと美袋翔子さんを守り抜いたような結末に出来るのなら。
せめて北条さんだけでも守りたいとは思んですけど。
たぶん無理だと思います。
…きっと。
私の力は全てを破壊してしまうから。
…だから、どちらかと言えば。
美袋翔子さんが自らの体を失ったように。
私の力は全ての存在を吹き飛ばしてしまうと思うんです。
だからこそ。
最後にしか使えない魔術になります。
…覚悟を決めるしかないよね?
次に魔術を使うのは全滅が確定した時。
そんな最悪の展開を考える私の周囲には、
生き残っている反乱軍のみんなが集まってくれていました。
…ですが。
国境警備隊の人達を含めても、
残る戦力は1000人には届かないのではないでしょうか。
…ここが私の最期なのかな?
お兄ちゃんにも。
お姉ちゃんにも。
淳弥君にも会えないまま。
ここで終わってしまうような…そんな予感がしました。




