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THE WORLD  作者: SEASONS
4月20日
1478/1587

指揮官の任命

《サイド:米倉宗一郎》



…どうにかたどり着いたな。



無理に走り続けたせいで体調があまり良くないが、

重郎と由美の補助のおかげで無事に港に到着出来た。



…先行している大悟はどこだ?



港の様子を確認してみる。


現時点で船は一隻しかないからな。



…迷う心配はないのだが。



雨の中を行き交う乗組員や運搬作業員達が慌ただしく作業しているために、

船の周辺では数百人規模の人だかりが生まれてしまっている。



この中から目視で探し出すのは難しく思えるのだが、

大悟は気付いてくれたのだろう。



「お待ちしていました。宗一郎さん。」



港の入口に立つ俺達に大悟から駆け寄ってきてくれた。



「まもなく準備が整います。乗組員の確認も出来ていますので、いつでも出航可能です。」



…さすがだな。



ルーン研究所の責任者を務めるだけあって、

手際の良さには感心させられるばかりだ。



「出航の前に相談があるのだが、聞いてもらえるか?」


「ええ、もちろんです。」



大悟と合流出来たことで、

今後の方針に関して話し合うことにした。



「状況が状況だからな。海軍の部隊を分けて竜の牙の追撃に向かおうと考えているのだが…大悟はどう思う?」



現時点での敵は、

竜の牙とセルビナの二つになる。



…とは言え。



ミッドガルムとウィッチクイーンがどう動くかも分からないからな。


そちらにも戦力を分ける必要があるだろう。



現時点で計4つの勢力に対して、

どう対応するべきか?



一通りの話を終えて問い掛けてみると。


大悟は迷うような表情を浮かべながらも、

ゆっくりと自分の意見を答えてくれた。



「部隊を二つに分けるという提案は良いと思います。現状では他に方法はないでしょう。ですが、宗一郎さんが海軍の指揮から降りると言うのは問題があるかと…。」



…ふむ。



大悟としては戦力がどうこうよりも、

俺の行動そのものに不満がある様子だな。



…だがな。



本格的な戦争となれば、

指揮官の能力が大きく戦局を左右するものだ。



今の俺では戦場を駆け抜けるだけの体力がない。


学園から港に移動するだけでも苦労するような身体だ。


ただ単に船に乗っているだけならともかく。


海戦や乱戦となれば、

俺が参加しても足手まといになるだけでしかないだろう。



だが、大悟は違う。



「大悟なら部隊を率いるだけの力がある。それに戦局を見通す采配力もあるはずだ。大悟が海軍を率いてくれるのならば、俺は安心して艦隊を任せられる。」



他にはいないのだ。


他に任せられる者など存在しない。



軍師としての才能がある重郎は、

マールグリナへ戻らなければならないのだからな。



朱鷺田や三倉等の町を治める主要な人材が失われた現状では、

重郎が町の立て直しを行わなければならない。


そのために町に戻らなければならないのだ。



もちろんそれは由美にも言えることだが、

由美には由美が率いる部隊があり、

その部隊を放置して海軍に入るわけにはいかないという理由もある。



各町に派遣した部隊を指揮する立場にいる由美をセルビナに送ることは出来ないからな。



そう考えれば必然的に人材は限られてくる。


この町には近藤家の人間を含めて優秀な人材は沢山いるが、

その中でも最も頼りになるのは近藤誠治か黒柳大悟くらいだ。



だが、近藤誠治は戦闘向きではない。


知略は優れているが実力は年々衰えを見せているからな。



危険な戦場に老人を送り込むわけにはいかないだろう。



年齢のわりには若く見えるが、

体力は決して高くはないはずだ。



近藤誠治を送るくらいなら自分で参加したほうがまだマシだと思う。



…とは言っても。



俺も大した役には立たないことは分かっている。



そう思うからこそ、

大悟に托すしかなかったのだ。



「俺は共和国に留まって由美と共に竜の牙の探索と殲滅を行う。」



内部に潜む敵を一掃しておかなければ、

今後必ず悪影響を及ぼすだろうからな。



「だからこそ海軍は大悟に任せたい。」


「…ですが、竜の牙の残存兵力は不明です。決して油断できる相手でもありません。せめて近海の海軍艦隊を共和国に戻すべきかと思います。」



アストリア方面やセルビナ方面の艦隊ではなく。


共和国の近海を巡回する艦隊を戻して、

竜の牙の追撃に部隊を分けるべきだと提案する大悟だが。


その意見を認めるわけにはいかない。



「それは無理だ。状況が変わろうとも海軍の役目は海域の確保にある。」



旧アストリア方面に派遣している艦隊にはミッドガルムへの牽制と他国への警戒を続行させる必要があるから帰港させるのは論外だが。


共和国周辺を警戒させている艦隊にも食料の調達と各国への警戒を指示しているのだ。


それらの活動を怠れば、

共和国は更なる危機に追い込まれかねない。



「セルビナ方面の艦隊だけが戦争に動かせる戦力なのだ。そこから部隊を分ければ、セルビナへの戦力が削られることになるぞ?」



海軍の役目は単純な戦力としての数ではなく共和国の防衛が優先なのだからな。


その活動を放棄してまで、

国内に呼び戻すわけにはいかない。



「現状では海軍の部隊を分けることは出来ないが、そもそも国内の戦力は決して少なくはない。」



停戦したミッドガルムの動きにもよるが、

由美の部隊と各町の協力があれば数に限りのある竜の牙の部隊を殲滅するのは難しくないはずだ。



「早急に共和国内部の混乱を収束させて他国に対する防衛力を高める為にも、俺が直接指揮をとったほうが話が早いだろう。」


「もちろん異論はありませんが…。」



俺の言葉を聞いた大悟は、

確認するかのように問い掛けてきた。



「それでは今後の方針として、セルビナ方面の海軍を率いてセルビナ軍と対抗すればよろしいのですね?」


「ああ、それでいい。」



短く答えてから大悟に指示を出す。



「本格的な戦争に発展した以上…共和国としてはもはや停戦の交渉は受け入れられない。」



セルビナが降伏を認めない限り進軍を続けるしかないのだ。


セルビナには共和国が受けた被害に対して、

それ相応の損害賠償を支払う義務があるからな。



「どういう理由で戦争を再開したかに関係なく、降伏を認めるまで徹底的にセルビナを叩け。」


「…なるほど。」



徹底抗戦の指示を出す俺の言葉の意味を察して、

大悟は覚悟を決めてくれたようだ。



「セルビナを叩くことで他国への牽制を行うということですね?」



…ああ、そうだ。



「共和国に襲い掛かればそれ相応の報復があるということを示すのだ。」



力には力を…という考え方はあまり利口とは言えないが。


力を示さなければ共和国は確実に追い込まれていくだけだからな。



「和平交渉を進める為には、こちらにも戦う力があることを示す必要がある。」



単純にセルビナを潰したところで周辺諸国からの反感を買うだけだが。


こちらの実力を示しておけば、

互いに大きな被害が生まれる戦争を行うよりも交渉による関係を築くべきだと思わせることが出来るだろう。



…現状では全くと言って良いほど話し合いが成立しない状況だがな。



セルビナとの戦いに勝利すれば、

交渉への糸口が掴めるかもしれない。



「アストリアの滅亡に続いてセルビナも降伏となれば…今後確実に交渉の場が用意できるはずだ。」


「わかりました。それではセルビナが軍を引かなければ王都まで軍を進めての制圧ということでよろしいですか?」



…ああ、それでいい。



「アストリア王国との戦争と同様に、こちらに被害が出る前にセルビナを叩く。」



国境付近で戦闘が始まっている状況だ。



すでにランベリアの町が危険にさらされているのだが、

今は軍の再集結を願うしかない。



「国境に多国籍軍を集めてセルビナに進軍させる。その間に、大悟は海軍を率いて海上からセルビナに侵攻してくれ。もしも間に合うようならば、こちらも竜の牙を殲滅次第、セルビナに部隊を派遣しよう。」



国境からの多国籍軍と海上からの艦隊。


そして後ほど魔術師ギルドか陸軍からの援軍を送れれば、

セルビナに対する部隊は10万を越えるはずだ。



アストリア王国の時とは状況が違う。



今回は戦争を前提に前もって準備を整えていたのだからな。



竜の牙による妨害を受けたせいで行動が遅れてはいるが諦めるにはまだ早い。



北条辰雄が率いる国境警備隊がどうなったのかは不明だが、

今はまだ残存していると信じるしかないだろう。



「戦場での指揮は全て大悟に委ねる。御堂君と共に共和国の為に死力を尽くしてほしい。」


「分かりました!」


「うむ。頼む。」



こうして今後の方針が確定したのだが、

俺達の話し合いが終わるのとほぼ同時に、

町の方角から御堂君達が駆け寄ってくる姿が見えた。




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