せめてもの礼
「バ、バケモノだあああああ!」
「悪魔だっ!悪魔がいるぞーっ!」
「逃げろーーーーっ!!!」
雷撃を受けなかった一部の兵士達が混乱状態となって退却していく様子を私と北条さんは静かに眺めました。
「ひとまず第一波は防いだか…。」
ほっと息を吐く北条さんですが、
これはまだ始まりに過ぎません。
退却しようとする兵士達を必死に押し止めながら進軍する残存部隊が、
共和国への行軍を再開しようとしているからです。
そんなセルビナ軍の様子を眺めながら、
私は北条さんに謝罪しました。
「…すみません。」
折角ここまで来たのに。
共和国軍を救出するつもりで来たのに。
「ここまでが…私の限界のようです。」
さすがに魔力が底を尽きかけていました。
これまでの戦闘によって、
9割以上の魔力を消費してしまったんです。
残り僅かな魔力を実感したことで謝罪したのですが。
「いや…。ここまで持ちこたえただけでも十分な戦果だ。」
北条さんは笑顔を見せてくれていました。
「本来ならば1時間と持たずに全滅していたはずの俺達をここまで守り抜いたお前の実力は本物だ。さすがは竜崎の名を受け継ぐだけのことはある。竜の牙という組織を作り上げたあの男の名を継いでいるのは確かなようだな。」
…お爺ちゃん。
北条さんの言葉を聞いて沈黙してしまいました。
全ての魔術師を守る為に。
この世界から魔術師狩りをなくす為に竜の牙を作ったお爺ちゃんはもうどこにもいません。
その跡を継いだお父さんも今はどこにもいないんです。
…そしてお母さんも、です。
今の竜の牙は私が知っている竜の牙とは違います。
ですがその理由を話すつもりはありません。
それは私の役目ではないからです。
決めるのは、お兄ちゃんです。
これからどうするのかを決めるのはお兄ちゃんの役目です。
だから私は私に出来ることをするだけです。
…とは言っても。
「ここまでの戦いで魔力が限界に近付いています。この先はもうセルビナ軍を押さえられません。」
おそらくはあと一撃程度が限界です。
そしてその攻撃を最後に私の意識は途絶えてしまうと思います。
「お役に立てずに…申し訳ありませんでした。」
「いや…もう十分だ。お前達は十分過ぎるほどに戦った。だから悲観することはない。俺達の命を数時間でも長引かせたお前達の努力は決して無駄にはならないはずだ。」
「ですが…。」
「…いいんだ。」
北条さんは真剣な表情で私に頭を下げてくれました。
「お前達のおかげで時間を稼ぐことが出来た。それだけは確かな事実だ。そしてお前達のおかげで共和国は助かるかもしれない。そう思えるだけの時間が稼げたのだ。それだけで十分だ。」
………。
北条さんは私を責めるようなことは一切しませんでした。
「もう十分だ。お前達はここから離脱しろ。せめて…せめてお前達の退路くらいは俺達が守り抜いてみせる。それが俺達に出来るせめてもの礼だ。」
…北条さん。
私の瞳を見つめる北条さんに私は何も言えませんでした。
本気で私達を逃がそうとしてると感じられたからです。
私達のことを何も知らないはずなのに。
それなのに私達の為に命を賭けようとしてくれているんです。
そんな北条さんの強い想いに、
死んでしまったお父さんの面影を感じてしまいました。
…お父さん。
私のお父さんは私やお兄ちゃんをかばって死んでしまいました。
竜の牙との戦いに敗れてしまった反乱軍を逃がすために最後まで戦ってくれたんです。
だから…でしょうか。
北条さんを見ていると。
まるでお父さんを見ているように思えるんです。
…死なせたくないよ。
…この人を失いたくないよ。
そのためにできること。
その方法は一つしか思い浮かびません。
…これしか、ないよね?
覚悟を決めて精霊から降りました。
そして精霊を解除します。
光と共に消える精霊を見送って、
精霊に分けていた魔力を取り戻しました。




