戦力の分散化
《サイド:黒柳大悟》
『ブォォォォォーーーーーン!!!』
『ブォォォォォーーーーーン!!!』
『ブォォォォォーーーーーン!!!』
…手筈通りだな。
町中に響き渡る警報音を聞きながら、
海軍の兵士達から最新の報告を受ける。
「町の北部から竜の牙の残党が退却するのを確認しました。」
…ふう。
どうにか撃退できたらしい。
敵の数は小数だが、
海軍には出航準備の為の待機命令が出ているからな。
追撃までは行っていないようだ。
今は海軍の代わりにカリーナから派遣された部隊が竜の牙の追撃を行ってくれているらしい。
「町の北では現在も戦闘が継続されているもようです。」
…なるほどな。
「他の地域はどうだ?」
「町の西側においても竜の牙の退却を確認しました。こちらも数は小数ですが、北側と同様にカリーナの部隊が竜の牙の追撃を行っているようです。」
…北と西に別れての退却か。
そうなると竜の牙の目的は戦力の分散だろうか?
現状で考えられる可能性はあまり多くはないはずだ。
共和国の全ての町を一斉に襲う理由があるとすれば『撹乱』か『時間稼ぎ』になる。
どちらにしても『戦力の分散化』だな。
こちらの戦力を分散させることで、
セルビナへの軍の集結を妨害するつもりなのかもしれない。
それが最も可能性の高い推測だと考えている。
セルビナと竜の牙が手を組んだかどうかは別として、
同時期に動き出したことには意味があるはずだ。
こちらの戦力を分散することで、
セルビナを優位に立たせるつもりなのだろう。
そしてもしもそうだとすれば、
竜の牙の作戦は成功したと言える。
現に各町との連絡は途絶えて、
他の町の状況が全く把握出来なくなっているからな。
…それに。
この町において戦闘が発生したことで連絡が遅れた為に、
海上を行動中の海軍の部隊とも今だに連絡が取れていない。
なおかつカリーナの部隊は32の町に分散されてしまい、
竜の牙の追撃の為に部隊を分けてしまっている。
そのうえでセルビナの国境に集まっていた多国籍軍も一時的に解散していたとなると。
再集結前に妨害を受けて、
各町において足止めを受けているはずだ。
そうなると国境を守るのは国境警備隊の兵士達だけということになってしまう。
各方面に配備されている国境警備隊は僅か3000名のみ。
たったそれだけの戦力でセルビナの進軍を食い止めるなど出来るはずがない。
共和国の戦力は分散されてしまい、
連絡を取り合うことさえままならない状況なのだ。
危機的状況に追い込まれている。
こうなると全てが竜の牙の思惑通りに動いていると考えるべきだろう。
実際の目的は不明だが、
セルビナに対する軍の集結は間に合わない。
今すぐに船を出航させても、
国境近辺に到着するのは最速でも明日の朝になるはずだ。
現在もセルビナが攻め込んで来ていることを考えれば、
国境の防衛は間に合わないかもしれない。
…最悪の場合。
ランベリアの町はセルビナ軍によって蹂躙されることになるだろう。
もしも各町からの援軍が間に合わなければ、
ランベリア周辺の町も壊滅する可能性がある。
…かなり危険な状況に追い込まれているな。
共和国の国内を行動中の竜の牙の残存部隊も無視できない。
どれほどの残存戦力が行動しているのか分からないが、
集結すれば町の一つや二つは落とせるかもしれない。
その程度の危険性は十分に考えられるのだ。
竜の牙の思惑に乗ってしまうのは悔しいが、
やはり今は戦力を分散させる必要があるだろう。
セルビナ方面へ軍を送るのは当然だが、
竜の牙の追撃と殲滅にも戦力を割く必要がある。
カリーナから派遣された戦力だけでは竜の牙に対抗出来るとは思えないからな。
町を襲った魔術師達程度なら問題はないが、
もしも幹部が動いているとすればこちらも相応の戦力を用意する必要があるのだ。
竜の牙の幹部達の実力はこちらの主戦力を遥かに上回っている。
奴らとまともに戦えるのは、
今となっては宗一郎さんしか考えられない。
…とは言え。
病に侵された今の宗一郎さんを戦力に数えることが出来ない。
宗一郎さんが万全な状態であれば幹部連中も恐れることはないのだが、
今の宗一郎さんではまともに戦えないからな。
…だとすれば?
唯一まともに戦えるのは御堂君だけかもしれない。
…少なくとも俺では太刀打ちできない。
悔しいが、時間稼ぎにもならないだろう。
5年前にアストリアで敗北した日のことは今でも覚えている。
それほど圧倒的な実力差だったのだ。
生き延びたことが奇跡的だと思えるほどの絶望を感じてしまっていた。
あの戦いにおいて俺達は多くの仲間を失い、
瀕死の重傷を負って逃げ出すだけで精一杯だったからな。
当時の恐怖は今でも忘れていない。
それほど危険な存在なのだ。
あのバケモノと対抗できる戦力となると、
現状では御堂君しかいないだろう。
米倉美由紀。
鞍馬宗久。
天城総魔等々。
共和国において主戦力と言えた者達はアストリア王国との戦いで全員亡くなってしまっている。
残る戦力では竜の牙と対抗できる力が足りないのだが、
それでも諦めるわけにはいかないのだ。
共和国が戦場となってしまった以上。
もはや逃げることは出来ない。
例え勝てないと分かっていても、
逃げるわけにはいかないのだ。
竜の牙との全面戦争となれば共和国の被害は計り知れないが、
もしも竜の牙との戦いに負ければ、
共和国は周辺諸国からの侵略を受けて滅びてしまうことになるからな。
そうなる前にこちらも戦力を整える必要がある。
…竜の牙と対抗できる戦力か。
せめて天城君が生きていれば…などと思っても死者は蘇らない。
残る戦力で出来る方法を考えるしかないのだ。
…ひとまず今は部隊の集結を待つしかないか。
まずは宗一郎さんと話し合うしかないだろう。
これからのことはそれから考えるしかない。
「出航の準備を急げっ!!積み荷を急いで運び込み、いつでも船を動かせるように配置につけっ!」
指示を出す俺の命令に従って、
海軍の兵士達が大急ぎで準備を進めてくれている。
その様子を観察する俺に、
一人の少年が駆け寄ってきた。




