風の魔術
「俺達は先行して偵察を行うぞ。」
今後の方針を決めたところで。
「俺達を置いていくつもりか?」
「僕も行くよ!」
別行動をとっていたカーターとピーターの二人も駆けつけてくれた。
「来るのが遅いわよ!」
「…いやいや、無茶を言うな。」
不満を表すジェリルに、
カーターは疲れた表情で答えている。
「これでも学園内を全力疾走した直後なんだぞ?」
…そう言えば。
カーターとピーターは戦力をかき集めるために学園内を走り回っていたんだったな。
「学園の状況はどうなっている?」
「まあ、とりあえずは落ち着きを取り戻した感じだな。学園の侵入者は全滅。町にいた何割かは逃走したらしいが、学園内にはもういないはずだ。」
「そうか…。」
戦闘が終わったことを知って安堵したところでカーターが説明を続けてくれた。
「だが…な。この戦闘によって理事長が亡くなったそうだ。戦う力のない生徒をかばって襲撃者の攻撃を受けて倒れたらしい。その後…かばった生徒も殺されて、結局ほとんどが死亡したそうだ。生き残った生徒の証言ではそう聞いている。」
…ちっ!
…理事長まで亡くなったのか。
学園の各地で倒れた生徒達を数え切れないほど目撃していたが、
その犠牲者の中には理事長まで含まれていたようだ。
「犠牲者は推定千人らしいぞ。教師、生徒問わず、あらゆる犠牲者が出ているそうだ。町にも襲撃者がいたとすれば、実際の被害は数倍に及ぶかもしれないな。」
…学園内だけで千人か。
町まで含めると5千人を超える可能性もあるか?
「お父さんとお母さんは大丈夫なのかな?」
カーターの言葉を聞いたジェリルが不安そうに呟いている。
町には家族がいるからな。
心配になるのは当然だろう。
もちろん家族がいるのはジェリルだけに限らず、
俺やマリアも同じだ。
町にいる両親のことは気になっている。
…とは言え。
今は家族の安否を確認している暇がない。
「あまりゆっくりとしている時間はない。セルビナの動きを偵察する為に行動を開始しよう。」
宣言してから校門へと視線を向ける。
「俺達の行動次第でこの町の運命も変わるかもしれない。セルビナに蹂躙される前に、俺達の手で戦争を食い止めるぞ!」
真っ先に駆け出す俺を追って、
マリアとジェリル、カーターとピーターも走り出す。
「全力で駆け抜けるぞ!!」
「援護するわ!ウインド・サークル!!」
校門を抜ける為に全力で先を急ぐ俺の背後で、
マリアが魔術を展開してくれていた。
『フワッ』と風が動き、
俺の周囲を風が取り囲む。
「感謝する。」
「良いのよ。」
短い会話だったがマリアは嬉しそうに微笑んでくれていた。
マリアが発動した魔術は風の結界だ。
風が俺の体を包み込んだことで雨を遮断する壁となる。
雨に濡れない為のマリアの配慮だ。
その気持ちに感謝して先を急ぐ俺の背後で、
再び発動する魔術によってマリア自身にも風の結界が発動している。
その周囲でジェリルとカーターも魔術を展開して結界を形作っていた。
そして一番最後にピーターも魔術を発動して結界を完成させたようだ。
5人それぞれの体を包み込む風の結界。
5人の中で唯一俺だけは補助魔術を習得していない為にマリアが気を利かせてくれたのだが。
…今の俺ならこの程度は出来るかもしれないな。
真哉のルーンを受け継ぐ今の俺なら、
全ての『風』の魔術を使えるかもしれないと感じている。
…とは言え。
わざわざマリアの善意を断る必要はないからな。
「先を急ぐぞ!!」
4人の仲間と共に校門を通り抜けることにした。
「セルビナとの国境を目指す!」
雨の町を駆け抜ける俺を追い掛けてマリア達も走り続ける。
そんな仲間達の存在を頼もしく思いながら再び国境へと急ぐことにした。
…共和国は守り抜く!!
そのために再び戦場に立つ。
今度は牽制ではなく、本当の戦闘だ。
犠牲者が出るのは避けられないだろう。
だからこそ仲間達の生存を願いたいと思う。
…マリア達は俺が守り抜く!
真哉のルーン『ラングリッサー』を握り締めながら心に誓いを立てる。
…誰も死なせはしない!
…必ず仲間を守り抜くっ!!
俺のこの手にラングリッサーが在る限り。
…俺は誰にも負けはしない!
…セルビナ軍!
…共和国をお前達の好きにはさせないっ!!
その想いを胸に秘めて、
大切な仲間達と共に国境へと急ぐことにした。




