悲しい選択肢
…まあ、ね。
いきなり戦争って言われても普通は参加しないわよね~。
それが当然の反応なのよ。
だから成美ちゃんに声をかけよう思ったんだけど。
「…成美ちゃん。」
その前に御堂君が成美ちゃんに話しかけていたわ。
「戦争に参加するということは、沙織と同じ結末を迎えるかもしれないということだ。命懸けの戦場から生きて帰れる保証なんて何一つとしてない。いや…はっきり言うなら死ぬ確率の方が高いのかもしれない。」
「………。」
はっきりと宣言する御堂君の言葉を聞いて怯えた表情を見せる成美ちゃんだけど。
御堂君は辛そうな表情を見せながらも言葉を続けてく。
「…だからね。もしもきみが望むのなら。もしもきみがこの町に留まることを望むのなら…。僕は僕の役目を果たさなければいけないと思ってる。」
自分の考えを告げる御堂君の表情は、
今にも泣き出しそうなほど辛そうに見えたのよ。
…御堂君の役目って何?
そんな疑問を感じた私の考えを察してくれたのか、
御堂君が話を続けてくれたわ。
「成美ちゃんはすでにウィッチクイーンと関わりを持っている。そしてそれは今後も続いていくだろうし、彼女の他にも成美ちゃんに近付いて来る人は数多く現れると思うんだ。」
…ん?
それって秘宝があるから?って思ったけど。
どうやらそういうことじゃないようね。
「成美ちゃんが受け継いだ力はね。成美ちゃんが思う以上に大きな力なんだよ。それは秘宝がどうこうではなくて、瞳に宿る奇跡が問題になる。その力がある限り、成美ちゃんを戦場に巻き込もうとする動きは止められないんだ。」
…それはたぶんきっと。
誰よりも強力な力を持っているから。
それを利用しようとする人が現れるっていう意味でしょうね。
「栗原さんも同じだ。その体に宿る希望という名の力が在る限り、栗原さんも争いから逃れられないと思う。今はウィッチクイーンだけだけど…。他にも栗原さんを利用しようと考える人が現れるかもしれない。」
…私を利用しようとする人?
ウィッチクイーンが私に何かを期待しているように?
他にもいるってこと?
「何か心当たりがあるの?」
「いや、僕は何も知らないよ。ただ、その可能性は否定出来ないと思うだけだ。」
…ああ、可能性の話ね。
「だけど現実的に考えて僕達は何も知らないまま目に見えない流れに巻き込まれようとしているのは確かだ。そしてその流れから逃げ出すことが出来ないでいる。」
「その流れが戦争ということ?」
「それもあるよ。だけどそれだけじゃないかもしれない。」
「やっぱり何か心当たりがあるの?」
「いや、そういう意味じゃないけれど…。そもそも戦争とウィッチクイーンは別問題だからね。他にも別勢力が動くようなことがあっても不思議じゃないと思うだけだよ。」
…ああ、なるほど。
…要は竜の牙も問題ってことよね。
「だからね。だからきみ達に聞きたいんだ。もしも争いを望まないのなら…。もしも平穏な日々を望むのなら…。僕はその願いを叶えたいと思ってる。」
御堂君は言ったわ。
とても真剣な表情で。
とても悲しそうな表情で。
とても悲しい選択肢を告げたのよ。
「争いから逃れる方法が一つだけある。そしてその方法を使えば、きみ達は確実に戦争という呪縛から解放されることになる。」
「どうするんですか?」
尋ねる成美ちゃんに視線を向けた御堂君は、
もっとも辛い選択肢を提示したのよ。
「二人に宿る力を消去する。」
「「………。」」
「総魔が遺した想いと力を僕が破壊する。それだけで、二人は今の見えない流れから離脱することが出来るはずだ。」
選択肢を告げた御堂君の言葉の意味はすぐに理解出来たわ。
それはつまり、
兄貴と愛里の想いを私から消すということよ。
そして同時に。
沙織と美袋さんの想いを成美ちゃんから消すという意味でもあるのよ。
だけどね?
本当にあるかどうかは分からないけれど。
それだけは絶対に認められないわ。
死んでもまだ私を守ろうとしてくれている二人を消し去ることで得られる安息の日々なんて私には必要ないからよ。
兄貴と愛里を殺してまで生き残りたいなんて思わない。
そんな選択肢を選ぶくらいなら戦争で死んだ方が遥かにマシよ。
だから絶対に。
その選択肢だけは例え死んでも選ばない!!
「それは無理よっ!」
否定した私の隣では、
成美ちゃんも同じように考えているみたいね。
「私も…出来ません。お姉ちゃんと翔子さんの想いを消してしまうなんて…私には出来ません。」
拒絶の意思を示した成美ちゃんだけど。
それでも御堂君は問い続けてくる。
「だけどその力がある限り…成美ちゃんは争いから逃れられない。沙織と同じように戦場で命が尽きる可能性を否定できないんだ。成美ちゃんに力が在る限り、きみを利用しようとする者達は必ず現れる。それでも…それでも頑張れるかい?」
「…分かりません。」
優しく問い掛ける御堂君に、
成美ちゃんは戸惑いながら答えてた。
「どうすれば良いのかなんて私には分かりません。でも…お姉ちゃんと翔子さんの想いを消すことだけは絶対に出来ません。二人の想いを消すくらいなら…もしもそうするくらいなら、私は迷わず死を選びます。私を愛してくれる二人の想いを失うくらいなら…私は生きていたくなんてありません。」
自分の命よりもね。
沙織と翔子の想いを選ぶ成美ちゃんの想いは私と同じみたい。
私だって兄貴と愛里を捨て去るくらいなら死んだ方が悔いが残らなくていいと思うのよ。
だから私も御堂君に答えることにしたの。
「消去なんて選べないわ。」
例えこの先に何があるとしても、
それだけは絶対に選べないし選ばない。
むしろそんな選択を選ぶくらいなら迷わず死を選ぶわ。
「私は絶対に消去なんてしないわよ。」
「私も同じです。二人の想いを消すことは、私自身の心を消すことと同じです。だから…だからそれだけは出来ません。」
私に宿っていると思われる兄貴と愛里の心。
そして成美ちゃんの瞳に宿る沙織と美袋さんの心。
それらを消し去ることは、
私達自身の心を消し去るに等しい行為なのよ。
…それにね。
自分だけが助かっても意味がないの。
大切な人を切り捨てて自分だけが生き残るなんて、
そんな最低の選択肢が選べるのならね。
そもそも医師なんて目指さないし、
兄貴や愛里の死を嘆いたりしないわ。
そう思うからこそ、
御堂君の提案を拒絶したのよ。
「消去はしないわ。それだけは何があっても絶対に受け入れられないのよ!」
はっきりと断言しておく。
「…私も出来ません。」
隣にいる成美ちゃんの意志も決まっているようね。
「例えこの先どれほど辛い出来事があるとしても…それだけは絶対に出来ません。」
「…そうか。」
きっぱりと拒絶する私と成美ちゃんの返事を聞いて、
御堂君はようやく笑顔を見せてくれたわ。
「ありがとう。二人なら…きっとそう言ってくれると信じていたよ。」
どうやら御堂君にとっても選んでほしくない選択肢だったようね。
私達がはっきりと拒絶したことで、
張りつめていた緊張感が一気に消えたような気がしたわ。
「だけどね?もしもきみ達が辛いと感じた時は…僕に言ってほしい。その時に僕が責任を持って力を消去するよ。」
選んでほしくはないけれど。
それでもその時が来るとしたら、
御堂君は自分自身の手で過去を断ち切ると約束してくれたのよ。
「だけどもしも…もしもきみ達が全力で立ち向かう勇気を持つのなら、僕がきみ達を守るよ。」
私達の力を誰にも利用させないために。
御堂君が手を貸してくれるみたい。
「決して死なせはしない。大切な仲間達の想いを受け継ぐきみ達を絶対に死なせはしない。僕が必ずきみ達を守り抜く。それだけは約束する。」
御堂君の表情は真剣そのもので、
とても頼もしく思えたわ。
…前回の魔術大会の時と比べると、精神的にも成長したようね。
圧倒的な実力に比例して、
存在感とも言うべき覇気がヒシヒシと感じられるのよ。
…それだけ天城君の存在が大きかったということかしら?
天城君との出会いが御堂君の運命を変えたのかもしれないわね。
一人の生徒から一人の魔術師として大きく成長した今の御堂君になら命を預けても良いと思えるのよ。
…って、言っても。
個人的には天城君のほうが好みだけどね〜。
今更、思っても意味はないんだけど。
兄貴と愛里の想いを届けてくれた天城君には心から感謝したいって思っているのよ。
…とは言え。
兄貴と愛里が関係なかったら、
それこそ意味がないけどね。
そんなことも考えながら御堂君に微笑んでみる。
「まあ、お互いに色々と考えることはあると思うけれど、遺された想いは捨てられないわ。」
だからね。
戦争に巻き込まれても巻き込まれなくても気にしないつもりよ。
「必要なら協力するし、そうでないなら普通に生活するし…。まあ、御堂君次第かしら?」
とりあえずは丸投げね。
そんな私を見て御堂君は笑っていたわ。
「ははっ。栗原さんらしいね。だけど戦争はそんなに気楽なモノじゃないよ。目の前で数え切れないほどの人々が死んでいくんだ。決して笑顔ではいられない。それだけの覚悟がきみにはあるのかい?」
…覚悟、ね。
あるかもしれないし、ないかもしれないわ。
でもね?
「悲しい思いならもう十分に経験したわ。」
兄貴と愛里が死んで。
兵器による地震の被害もあって。
町も襲われて。
どれだけの人が亡くなったかなんて分からないのよ?
「だけどそれでも私達は生きていかなければいけないの。残された私達はね…。」
天城君を含めて兄貴や愛里達が必死の思いで守り抜いた共和国なのよ。
みんなの努力のおかげで私達は今を生きていられるの。
だからこそ今度は私達が守る番だと思うのよ。
これからを生きていく人達の為に。
もしも私に出来ることがあるのなら。
この命を賭けても良いと思っているわ。
「御堂君についていくわ。私で役に立てるのならね。」
それが私の選ぶ道だと宣言する私の隣で、
成美ちゃんも覚悟を決めたみたい。




