今はまだその時じゃない
瞳に宿る柔らかな想い。
今までは漠然に感じていた想いを見ることが出来ました。
とても大切な人の優しい想いを見ることが出来たんです。
…だから。
…だから。
「ありがとう、お姉ちゃん。ありがとう、翔子さん。」
感謝の言葉をささやいた瞬間に。
揺れ動いていただけの光が微笑んでくれたような…そんな気がしました。
形がないのに。
どうしてそう感じたのかは私にも分かりません。
ですが、そんなふうに思えたんです。
二人が微笑んでくれているように思えたんです。
「ずっと…。ずっと傍にいてくれたんだよね?」
二人に呼び掛けても返事は返って来ません。
だけど優しい想いだけは伝わってきます。
それは錯覚かもしれませんし、幻かもしれません。
勝手に思い込んでいるだけなのかもしれませんけれど。
それでも私は信じることにしました。
二人が微笑んでくれているんです。
二人が側にいてくれているんです。
そう思うだけで私は生きていけるから。
だから今は信じることにしたんです。
…ありがとう♪
心の中で感謝の想いを込めてから瞳を開きました。
涙で霞む視界ですけど。
それでも御堂さんと栗原さんが私を見つめているのはすぐに分かります。
「大丈夫なの?」
「…はい。」
心配してくれる栗原さんに頷いてから、
溢れる涙を拭いました。
「きっと…きっとこの秘宝のおかげだと思います。ぼんやりとですけど…お姉ちゃんと翔子さんの想いが見えたんです。姿までは見えませんでしたけど…それでも二人が微笑んでくれているような…そんな気がしたんです。」
「へぇ~、そうなんだ?良かったわね〜。」
栗原さんは優しく微笑んでくれました。
「良いモノをもらったわね。」
「はいっ♪」
神様は信じられませんけれど。
秘宝の力は信じたいと思います。
これがあればお姉ちゃんと翔子さんの想いを見ることが出来るからです。
それが分かっただけでも私には十分でした。
「大切にしますっ♪」
涙をこらえて笑顔を浮かべます。
そうして御堂さんへと視線を向けてみると。
御堂さんも優しく微笑んでくれていました。
「どうやら秘宝は本物みたいだね。」
微笑んでくれている御堂さんですが、
その笑顔はどこか寂しそうで…少し悲しそうにも思えました。
…もしかしたら?
悲しそうな理由は御堂さんには見えない存在だからかもしれません。
「あ、あの…っ。これを…。」
秘宝を御堂さんに差し出そうとしてみたのですが。
「いや…僕はいいよ。」
御堂さんは小さく首を左右に振っていました。
「それは成美ちゃんの物だからね。」
御堂さんは秘宝を受け取ろうとはしなかったんです。
「で、でも…っ!」
それでも私は御堂さんに秘宝を差し出しました。
「きっと…きっと御堂さんなら、お姉ちゃんが見えると思いますっ。」
お姉ちゃんを知っている御堂さんなら見えるはずです。
そう信じて御堂さんと見つめ合う私に、
御堂さんは悲しそうな表情でもう一度だけ微笑んでくれました。
「いや…今はまだその時じゃないと思うんだ。もちろん沙織には逢いたいと思うよ。逢って話がしたいとは思うけれど…。だけど今はまだその時じゃないとも思うんだ。僕はまだ沙織と向き合えない。僕はまだ沙織との約束を果たしていないからね。」
…約束?
お姉ちゃんと御堂さんがどんな約束をしたのかは分かりませんけれど。
涙を隠すかのように俯いてしまった御堂さんの姿を見てどうすることも出来なくなった私は、
それ以上何も言わずに秘宝を戻すことにしました。




