二つの光
首にかけているネックレス。
銀の鎖に繋がっているのは緑色の宝石です。
私の胸元で揺れる宝石に視線を向けた御堂さんは静かに話を続けました。
「成美ちゃんがウィッチクイーンから預かったネックレスに繋がる宝石。その宝石には大きな意味があるらしいんだ。」
…えっと。
この宝石に関しても教えていただけるようですね。
「その緑色の宝玉は竜の牙が探し求めている秘宝の一つらしい。」
…秘宝?
「どういう理由で成美ちゃんに預けたのかは分からないけれど。多分それは成美ちゃんに秘められている力を覚醒させる為に…その為にウィッチクイーンは成美ちゃんに秘宝を預けたんじゃないかな。」
…私の力を覚醒させるため?
…どういう意味でしょうか?
これがあると最強の魔術師になれるということでしょうか?
個人的にはそんなことに興味なんてないんですけど。
秘宝と呼ばれる緑色の宝玉をつまみとって視線を向けてみました。
暖かいような冷たいような不思議な感じがする宝石です。
「大事なものなんですか?」
「まあ、そうなるね。」
宝玉に触れる私を眺めながら、
御堂さんは秘宝についても説明してくれました。
「僕も伝え聞いた話だから実際にどの程度の力を持っているのかは分からないけどね。秘宝というのは所有者に絶大な力を与える特殊な宝石らしい。嘘か本当か…神にも等しい力だと聞いているんだ。」
…神様に等しい力?
実際に神様がいるかどうかなんて知りませんけれど。
個人的に神様という言葉は信じられないと思っています。
…いえ。
…信じたくないと言うべきでしょうか。
…神様なんているんですか?
秘宝がどうとか。
能力がどうとか。
そんなことはどうでも良いんです。
そうじゃなくて。
そこは問題じゃなくて。
神様がいるかどうかという部分にだけ、
『嫌悪感』を感じてしまうんです。
もしも神様がいるのなら。
…どうして?
どうして私だけが盲目で生まれてこなければいけなかったのでしょうか?
…もしも本当に神様がいてくれるのなら。
どうして私だけが障害を持って生きなければいけなかったのでしょうか?
他のみんなと同じように生まれて、
他のみんなと同じように生活をする。
そんな平凡で当たり前の日常を、
どうして私だけが出来なかったのでしょうか?
そんなふうに考えてしまう人生を今までずっと過ごしてきたんです。
だからどうしても神様という言葉は信じられませんし。
信じたいとも思えませんでした。
「この宝石に神様と同じ力があるんですか?」
だとしたら。
今すぐにでも外してしまいたいと思うんですけど。
その前に栗原さんが御堂さんに問い掛けていました。
「話を中断して悪いんだけど、本当にそんな凄い力があるの?こんな小さな宝石にそんな凄い力があるようには見えないんだけど…?」
「ああ、そうだね。僕も半信半疑だよ。だけどこの話は米倉さんから聞いた話なんだ。」
「米倉元代表?」
「ああ、そうだよ。米倉さんに聞いた話なんだけど、実際に竜の牙がその秘宝を戦場で使用するのを何度も確認していたらしい。秘宝の名前は千里の瞳と言って、あらゆるモノを見通す力があるそうだよ。」
「あらゆるモノを見通す?」
首を傾げる薫さんも半信半疑の様子ですね。
どういう意味なのか分かるような分からないような…あやふやな感じです。
だから疑問を感じているのは私も同じなんですけど。
それでも何となくなら分かるような気がしました。
この宝玉に触れているだけで、
何かが理解出来るような…そんな気がするからです。
だけどそれは私の瞳の力がどうこうという話ではなくて、
もしかすると秘宝と呼ばれるこの宝玉の力なのかもしれません。
そしてそれを証明するかのように、
御堂さんが説明を続けてくれました。
「近くの人の実力も…遠くにいる人の出来事も…他国の情報まで、あらゆるモノを見通せる力が秘められている宝玉。それがその秘宝の能力らしいよ。」
あらゆるモノを見通せる秘宝の能力。
…もしもそれが本当だとしたら?
…もしかすると見えるのでしょうか?
御堂さんの説明を聞いて秘宝を握り締めてみました。
上手く出来るかどうかなんて自信は全くありませんけれど。
それでも何かが見えるような気がしたからです。
………。
秘宝を握り締めている右手に感じる不思議な感覚。
今まで一度も感じたことがないような感覚でした。
…だけど。
…それでも。
瞳を閉じてみると。
何故か涙が溢れてくるんです。
「成美ちゃん?」
「どうしたの?大丈夫?」
………。
私を心配してくれる御堂さんと栗原さんの声を聞きながら、
ただただ静かに涙を流してしまいました。
本来なら真っ暗で何も見えないはずの世界なのに。
瞳を閉じて視界を閉ざしているはずの暗闇の世界には、
二つの暖かな光が浮かんでいるからです。
それはとても穏やかで。
それはとても暖かくて。
それはとても優しい光です。
そして二つの光は何かの形に変わろうとしているようでしたけど。
上手く形が変えられないように思えました。
ぼんやりとゆらゆら揺れ動く光の形が何なのかは私にも分かりません。
ですが…それが『何か』は分かります。
「お姉ちゃん…翔子さん…。そこに…そこにいるんだよね?」
「「………!?」」
呟いた私の言葉を聞いて息を飲む御堂さんと薫さんの緊張感が伝わってきます。
二人が今どんな表情をしているのかは、
目を閉じている私には見えませんけれど。
それでも二人に見つめられている感覚だけははっきりと感じとれました。
…これが秘宝の力なのでしょうか?
自分でも良く分からない感覚なのですが、
それでも私は見ることが出来ました。
二人の姿ははっきりとしませんけれど。
それでも二人の想いを見ることは出来たんです。




