育てる?
…ん~。
ここに用意されてる訓練用の的はシールドに近い特性があるみたいね。
魔術を受けても壊れたりしないように出来ているらしいわ。
それと実験場の周辺には学園の検定会場と同じような結界もあるみたいで、
外部に魔術がもれる心配もないみたい。
「ここでは遠慮なく、どんな魔術を使っても良いのよ♪」
「あ…はい。」
美咲さんの許可をもらったことで、
とりあえずルーンを発動させてみる。
金色に輝く小さめの弓の名前はスピードスターよ。
攻撃力よりも速射性を重視しているから、
放たれる矢はカリーナで最速のはず。
全学園で見ても5本の指に数えられる速度を誇っていると思うわ。
まあ、魔術師全体で見ると自信はないけどね。
それでも自分ではかなり優秀なルーンだと信じているのよ。
…速度だけは、だけどね〜。
それ以外は平均点なのよ。
電光石火と言うか、
先手必勝というか、
とにかく先に攻撃できれば何とかなるっていう感じ?
だからこそ不穏な能力をもつ生徒が多いカリーナで2位にまで上り詰められたのよ。
…決して弱くはないの。
そこに自身を持って良いと思っているわ。
ひとまず美咲さんに私の実力を見せるためにね。
弓を構えて光の矢を作り出してみることにしたの。
「ソーラー・レイ!!」
本来なら最速の射撃魔術なんだけど。
今は撃つのが目的じゃないから維持してみる。
「こんな感じなんですけど?」
「うんうん♪なかなかの力ね〜♪」
満足そうに頷いてくれる美咲さんが何を考えてるのかは分からないけれど。
振り返ることはせずに、
光の矢を放つことに集中したわ。
「行きますっ!」
自信を持って放つのは最速の一撃よ。
手加減なしで放った光の矢は、
最も遠くにある的を1秒もかけずに直撃してから消失したわ。
…まあ、距離的に30メートルくらいしかないんだけどね。
それでも周囲で見ていた人達からの注目を浴びながら美咲さんに振り返ってみる。
「まあ、こんな感じです。」
「さすがね♪乃絵瑠ちゃん♪」
美咲さんは私の頭を撫でながらルーンに視線を向けてた。
「なるほど、なるほど~。やっぱり相性は悪くないわね♪でもどうせ目指すのなら、もう少し変化がほしいわね~。もしも出来るのなら…?」
ブツブツと独り言を呟いたあとで、
私と向き合ってから一歩後ろに下がったのよ。
「まあまあ、細かいことは後回しにして…とりあえず闇もやってみて♪」
「あ、はい。」
指示を受けたことで、
もう一度、さっきの的に視線を向けてみる。
だけどね?
私のルーンは闇の魔術が使えないのよ。
光属性特化のルーンだから、
闇に限らず他の全ての魔術が使えないんだけどね。
…とりあえずルーンはいらないわね〜。
持っていても意味がないから解除することにしたわ。
…まずは簡単な魔術で実践するしかないかな。
魔術の詠唱を行ってみる。
…ちゃんと成功するのかな〜?
決して難しくはない魔術のはずなんだけど。
今だかつて一度も成功したことがないのよ。
それでも割と本気で発動させてみたわ。
「ブラック・アロー!!!」
現れたのは闇の塊とも言えるような黒い矢よ。
本来ならね。
炎とか氷とか他の属性の矢と同様に、
複数の矢を生み出すはずなんだけど。
発動出来たのは1本だけだったの。
…あうぅぅ~。
…今回も失敗ね。
それでも一応、的に目掛けて矢を放ってみる。
一直線に飛ぶ黒い矢は、
『ザクッ』と的に当たった直後にすぐに消滅してしまったのよ。
「…とまあ、こんな感じです。」
予想通りの結果に落ち込んでしまうけれど。
美咲さんとしては許容範囲だったのかも?
「これが『今』の乃絵瑠ちゃんなのね〜。だけど私の訓練を乗り越えたら必ず闇属性を極められるわ。」
残念すぎる結果を見ても、
呆れたりせずに優しく接してくれたのよ。
…今はその優しさが切ないわね。
自分の不甲斐なさに涙が出てくるわ。
「心配しなくても大丈夫よ♪」
…うぅ〜ん?
どこからその自信が来るのかは知らないけれど。
微笑んでくれる美咲さんの笑顔を信じて、
ひとまず笑顔を返しておくことにしたわ。
「よろしくお願いします!」
「ええ。私がきっちりと乃絵瑠ちゃんを『育てて』あげるわねっ♪」
………ん?
…えっと?
…私を?
…育てる?
………………………?
どういう意味で?
今の言葉には何故か意味深な感じがしたんだけど?
聞きたくない理由のような気がするから、
あえて追求は避けることにしたわ。
…聞きたくないし!
…知りたくもない!
とりあえずはね。
こういうことって気にしないのが一番なのよ。
…きっと。
…たぶん。
気にしたら負け!
…よね?
「えっと…。それで、次はどうするんですか?」
「今日はもうおしまいよ。」
…あれ?
もう終わりなの?
「もうすぐ夜だから、ここは封鎖されるわ。」
…ああ、なるほど。
ギルドの時間の都合なのね。
「夜間に騒ぐと迷惑になるから今日はもう帰りましょう。続きはまた明日…ね♪」
…そっかそっか。
…ここを使える時間は決まってるのね〜。
「次に行きましょう♪」
「あ…はい。」
楽しそうに歩き始める美咲さんを追って私も歩き出す。
そうして地下の訓練場から1階に向かう途中で美咲さんが話しかけてくれたのよ。
「部屋まで案内するわね〜♪」
このあとは宿泊用の部屋に案内してくれるみたい。
軽快に歩みを進めていく美咲さんと二人で地下の訓練施設を出た私達は、
そのままギルドの2階に向かって移動することになったのよ。




