3番目が限界
《サイド:冬月彩花》
暗黒迷宮の手前にある休憩室。
お風呂に入ってゆっくりと体を休めたあとで、
無駄に広い部屋でソファーに座りながら濡れた髪を乾かしてのんびりとした時間を過ごしているとね。
不意に扉の開閉音が聞こえてきたのよ。
…ようやく誰か出て来たわね。
席を立って暗黒迷宮の入口に繋がる隣の部屋に向かってみると。
ふらついたあしどりで出口から出てくる未来の姿が見えたわ。
「あらあら、随分と苦戦した様子ね。」
「…あ~、うん。」
微笑みながら話しかける私を見て、
未来は苦しそうな表情で苦笑していたわ。
「今の私には3番目がギリギリかも…。正直な話、もう少しで意識が飛ぶところだったわ。」
…まあ、未来の実力ならそうでしょうね。
それでも乃絵瑠よりは順調だから、
まだ良いほうじゃないかしら?
「もう一度、練習してみることね。」
「ええ、そのつもりよ。」
何とか返事はしてくれたけれど。
どうやらここまでが限界の様子ね。
「…で、ごめん、彩花。もう無理…っ。」
私に歩み寄ってきた未来は、
休憩室に戻る前に力尽きて倒れてしまったのよ。
………。
どうやら本当に意識を失ってしまったようね。
つまり。
今の未来では3番目が限界ということよ。
こうなると次の4番目の攻略は無理でしょうね。
…ふぅ。
問題の4番目の扉に視線を向けてみる。
今はあずさが挑戦しているはずよ。
…あずさはどうかしら?
3番目までは楽々突破していたけれど。
4番目に入ってからはなかなか出て来ないわ。
…こうなると中で力尽きている可能性が高そうね。
だとしても救助には入れない。
入口は厳重に封鎖されているからよ。
…死んでさえいなければそれで良いけれど。
あずさの安否を思うと同時に7番に入った奈々香を思い出す。
…問題は奈々香ね。
奈々香なら大丈夫だとは思うけれど。
…どうかしら?
全く未知の7番目を経験しているのは奈々香だけだから中の様子は想像さえ出来ないわ。
…とりあえず今は未来を運んだほうが良さそうね。
このままここに転がしておくと、
あとで文句を言いそうだから未来に手を伸ばしてみる。
…だけど。
「…くっ。」
乃絵瑠よりも体重があるわね。
…+4キロというところかしら?
担ぎあげる気にはなれないわ。
無駄な魔力も使いたくないし。
…とりあえずは。
「引きずって行けば良いわね。」
意識を失っている未来の両手を掴んでベッドまで引きずることにしたのよ。
「どうせならベッドにたどり着いてから倒れれば良いのに。」
何を言っても現実は変わらないけれど。
さすがに通路で放置するのは邪魔なのよ。
…とは言え。
ベッドまで運ぶのも面倒に感じるから。
「まあ、この辺りで良いわね。」
休憩室の絨毯の上で放置することにしたわ。
「ゆっくり寝てなさい。」
あっさりと見捨てて未来から離れる。
そして時計の針に視線を向けてみると、
すでに5時を大きく過ぎていたわ。
「お腹が空いたわね。夕食にしようかしら?」
使えそうな食材を調べてみるけれど。
基本的に保存食しかないようで、
まともな料理ができるようには思えなかったわ。
「まあ、適当で良いわね。」
食材を集めて調理を始める。
もちろん自分の分だけよ。
未来は寝ているし、
あずさと奈々香はいないわ。
この状況で気を利かせる必要なんてないわね。
…そもそもお腹が空いたら自分で作れば良いのよ。
乃絵瑠でさえ自分の食事は用意できるんだから。
わざわざ他人の食事まで用意する必要なんてないのよ。
私は私の夕食を用意するだけ。
…まあ、それはそれとして今日は疲れたわね。
学園での戦闘による疲労がまだ残っているのかもしれないわ。
「今日は体を休めて、迷宮の攻略は明日からかしら?」
どちらにしてもね。
奈々香が帰ってくるまでは何もできないわ。
だから今は乃絵瑠の帰ってくる日を心待ちにしながら、
静かな時間を過ごすことにしたのよ。




