言い争う二人
【サブタイトル】怪我の具合は
《サイド:フェイ・ウォルカ》
学園長との話を終えて校門を離れた俺は再び女子寮まで戻ってきた。
…まだ残されたままか。
殺害された女生徒達の遺体はまだ各地に残ったままだ。
今日中には霊安室かどこかに運ばれることになるのだろうが、
今は学園内の戦闘が終わったばかりだからな。
遺体の回収にまで手が回らないのだろう。
…無念だろうな。
国境での戦争では生徒に死者が出なかったというのに、
学園で死者が出るというのは皮肉にも思える。
…本当の脅威は他国ではなく、悪意ある魔術師ということか。
襲撃者の目的は不明だが、
学園が把握している範囲だけでも1割を超える犠牲者が出ていたらしい。
…最低で500か。
実際にどれだけの死者が出たのかは分からないが、
今後の治療の進展次第では死者の数は1000人を超える可能性もある。
町での被害も含めれば、
犠牲者の数はさらに膨らんでいくだろう。
…戦争が起きても起きなくても、争い自体はなくならないということか?
町と学園が襲撃された理由までは聞き出せなかったが、
竜の牙という部隊が暗躍しているのは確かだ。
…マリアが心配だな。
竜の牙と交戦して倒れたマリアの身を案じて、
15棟ある寮の一つへと歩みを進めていく。
各棟に200人ずつ。
合計3000人の女生徒が住む女子寮。
その一つに用があるのだが、
さすがに中に入るわけにはいかない。
緊急事態とは言えども、
女子寮に入るわけにはいかないからな。
余計な例外を認めてしまえば、
無粋な考えを持つ輩が真似をしかねない。
ひとまず中に入る案は却下するとして、
マリアとジェリルがいるはずの寮の入り口付近まで歩みを進めてみる。
…とりあえず、入口に向かうしかないか。
周辺にいる女子生徒に頼んでマリアを呼びに行ってもらおうと考えたのだが、
その前に玄関から飛び出す一人の女子生徒の姿が見えた。
…あれは?
それが誰なのかはすぐに分かる。
…どこかに向かうつもりなのだろうか?
急いで声をかけようと思ったのだが。
俺が動き出すよりも先に別の女子生徒が駆けつけて、
寮を飛び出してきた女子生徒の腕を慌ててつかみ取っていた。
「ちょっと!落ち着いてよ、マリアっ!!」
慌てて引き止めようとしているのはジェリルだ。
必死に呼び止めるジェリルを、
マリアが振りほどこうとしている。
「放してジェリルっ!フェイを一人には出来ないわっ!!」
どうやら俺の心配をしてくれているようだ。
俺を捜すために先を急ぐ様子のマリアだが、
ジェリルは懸命に引き止めてくれていた。
「まだダメよっ!怪我が完治してないんだから大人しくしてたほうが良いわっ!!魔力だってまだ回復してないのよっ!?この状況で行っても足手まといになるだけよ!!」
「そんなの分かっているわ!だけど、じっとなんてしていられないのよっ!」
必死にジェリルから逃れようとするマリアがもがいている。
…このまま放っておくと喧嘩になりかねないな。
言い争う二人を仲裁するために、
急いで駆け寄ることにした。
「目覚めたかマリア!ジェリルも無事だな?」
「フェイっ!!」
「あ~、良かった〜。無事だったのね。」
声をかけたことでようやく俺に気付いてくれたようだ。
言い争いを止めて振り向いてくれた。
そして俺の無事を確認して安心したのだろう。
笑顔を浮かべるマリアの隣でジェリルも微笑んでくれている。
「悪いがゆっくりと話をしている時間がない。セルビナが再び攻め込んできたようだ。俺はこれから国境に向かうつもりだが、二人はどうする?」
「フェイが行くなら、どこへでも行くわ!」
「次から次へと問題が絶えないわね~。」
即座に答えてくれるマリアに続いて、
ジェリルも頷いてくれていた。
「状況が把握出来ないけれど、とりあえず荷物をまとめれば良い?」
「ああ、集合は校門だ。」
すでに解散した部隊の大半が校門付近に再集結しつつあるからな。
「出発の準備が整い次第、校門に来てほしい。」
簡単な指示を出してから、
改めてマリアに視線を向けてみる。
「怪我の具合はどうだ?」
「え…ええ。魔力が足りなくて治療が追いついてないけれど、普通に行動するくらいなら大丈夫よ。」
「そうか。」
さきほど倒れた時と比べれば、
顔色はかなり良くなっているように思えるな。
…この様子なら大丈夫か?
医療の心得がない俺では何とも言えないが、
現在のマリアは魔力が足りない状況らしい。
…枯渇寸前の状態なのだろうな。
攻撃魔術に特化して回復魔術が不得意な俺とジェリルではマリアの治療が出来ない。
だが校門に集合している他の生徒や魔術師達の協力を得られればマリアの治療はすぐに出来るはずだ。
「俺も荷物をまとめてから校門へ向かう。二人もすぐに準備をしてくれ。」
お互いの準備のために、
一旦この場から離れることにする。
「またあとで会おう。」
挨拶をしてから女子寮を離れることにした。




