乃絵瑠ちゃん♪
…あうぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
圧倒的な恐怖を感じて震えてしまったわ。
心の底から感じる恐怖のせいで、
両手の指先まで小刻みに震え出していたのよ。
「あらあら、そんなに怖がらなくても良いのよ?」
そっと私の手を握る美咲さんの手はとても温かくてとても柔らかいのよ。
外見も本当に綺麗で、
優しいお姉さんっていう感じ?
雰囲気は奈々香とは違っていて、
彩花に近い妖しさがあるわ。
…何て言うのかな?
…魔性の女っていう感じ?
だけど何かを企んでいるかのように微笑む彩花とは違って、
優しく微笑む美咲さんの笑顔はキラキラと輝いてる感じなのよ。
…でもね?
今はそれが最大の恐怖でもあるわ。
「さあ、乃絵瑠ちゃんも座ったら?」
笑顔で告げられる優しい言葉だけど。
素直には聞き入れられない。
…色んな意味で恐すぎるから。
どうすれば良いのか分からないけれど。
美咲さんは私の手を離してくれないのよね。
「座ったら?」
何度も催促されてしまって、
拒絶出来ない空気が流れ始める。
………。
…と、とりあえず座るだけよね?
異様な雰囲気を感じながら無言で席につく。
…大丈夫。
…きっと大丈夫。
…これはきっと冗談に決まってるわ。
必死に思い込もうとしてみたんだけど。
美咲さんは妖しさ全開の視線を向けてくる。
「良く似合ってるわね。その服。」
褒めてくれる美咲さんの視線が私の体に向いてるような気がするけれど。
そんなはずはないわよね?
…気のせい。
…きっと気のせい。
…だからそんなはずはないわ。
…大丈夫。
…そんなことはない、はず?
…はあ~。
…もう止めよう。
…考えれば考えるほど危険な気がしてくるわ。
追求すればするほど美咲さんの目が怖くなってくるからよ。
だからここは話の流れを変えたほうが安全かもしれないわね。
「あ、あの…っ。」
「なぁに?乃絵瑠ちゃん♪」
…うぁぁぁっ!!
『ゾクゾクッ!!!』と、
再び駆け巡る悪寒と恐怖。
美咲さんに乃絵瑠ちゃんって呼ばれる度に鳥肌が全身に広がってしまうのよ。
…違うっ。
…違うから!
…考えるな。
…考えるなっ!
…これは気のせい。
…気のせいだから〜〜〜〜〜!!
…だから、気にしたら負けなのよっ!!
何が負けなのかすら分からないけどね。
無理矢理自分に言い聞かせながら話し掛けてみることにしたのよ。
「あの…。ここで魔術の勉強をしたいんですけど、ギルドでも練習が出来るんですよね?」
「ええ、出来るわよ。」
「で…ですよね?」
「ええ、何なら私が手取り足取り…みっちりと指導してあげましょうか?」
…ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
全身を駆け巡る悪寒が止まらないのよ。
たった数分の間で何度も危険な発言を聞いた私の心は、
すでに最大級の危険信号を放っていたわ。
…だめだめだめだめっ!!
…考えたら負けよっ!!
必死に心を落ち着けて美咲さんと向き合ってみる。
だけど美咲さんの瞳は異様な悦びに満ち溢れているように見えるのよ。
…こ、怖いっ。
…恐すぎるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
とても優しい微笑みを浮かべている美咲さんが今はとてつもなく怖かったわ。
…は、話を、話を変えないとっ!
「そ、その…。学園の地下にある暗黒迷宮って知ってますか?」
「あ〜、アレのこと?もちろん知ってるわよ。あれの製作には私も関わってるから、色々と知ってるわよ。」
「え?そ、そうなんですかっ!?」
予想外の答えだったわ。
暗黒迷宮の製作に美咲さんが関わっていたなんて全く知らなかったからよ。
…だけど。
だとしたら納得出来ることもあるのよね。
それはつまり。
どうして部外者の美咲さんが度々学園に訪れていたのか?という疑問よ。
本来なら一般人や部外者は立入禁止のはずの学園に美咲さんは何度も訪れていたのよ。
その疑問に対する答えが暗黒迷宮の関係者だとすれば納得出来るわ。
暗黒迷宮自体は何年も前から存在しているとしても、
その維持や補修作業かあるいは改修工事などなど。
やらなければいけないことは沢山あると思うのよね。
それらの作業の為に学園に訪れていたのかもしれないわ。
そしてそのついでに奈々香に会っていたんだと思うのよ。
そうして私とも出会ってしまった…って~!?
…違~うっ!!!
…そこは考えると危険なのよっ!!
回帰する思考に怯えてしまう私の心。
そんな危険な思考を捨て去るために、
慌てて話を続けることにしたの!!




