矢島美咲
「それじゃあ、改めて自己紹介をしておくわね。私の名前は矢島美咲。奈々香の姉よ。」
「あっ!!」
…ああああああああああっ!!!!!!!
名前を聞いた瞬間に彼女のことを思い出したわ。
確かに奈々香のお姉さんの美咲さんとは会ったことがあるからよ。
学園まで奈々香に会いに来ていたのを目撃してたし。
何度か挨拶をしたこともあったわ。
…だけど。
まじまじと見つめる美咲さんの姿は私の記憶とは真逆なのよね。
今の美咲さんはギルドの制服を着ていて、
清楚でおしとやかな雰囲気なのよ。
だけど学園で見た美咲さんは、
派手な衣装を着た自己中心的な性格だったはず。
無口な奈々香と並ぶと本当に姉妹かと疑いたくなるほど正反対な性格だと思っていたのよ。
明るくて、元気で、無邪気なくらい自由な人。
そんなふうに思っていたから全然気が付かなかったのかも?
少なくとも名前を知った今でさえも、
本当に同一人物か疑ってしまう自分がいるくらいだしね。
「本当に…奈々香のお姉さんなんですか?」
「ええ、そうよ。」
ついつい聞き返してしまった私に、
美咲さんは笑顔で頷いてくれる。
「信じられないかしら?」
「あ、いえ。そういうわけじゃないんですけど…。」
…何て言うのかな?
「学園で会った時とは、印象が違う気がしたので。」
「あれは奈々香の前だからよ。」
言葉に困りながら答える私に、
美咲さんは照れ臭そうに微笑みながら答えてくれたわ。
よく分からない理由だけど。
いつもそうしてるわけじゃないみたい。
「服は私の趣味だけど。性格はね。奈々香の前では出来る限り明るく振る舞っているのよ。」
…奈々香の前では?
「そうでもしないとほら、あの子…全く話さないでしょ?」
…ああ~。まあ、確かに。
「放って置くと、一生話さないんじゃないかって不安に感じるから強引に話し掛けてるだけで、いつもそうしてるわけじゃないのよ。」
…なるほど。
お姉さんとしての配慮ってことなのかな?
とりあえず理由があるのは分かったけれど。
だけど今の発言には明らかな疑問があったわよね?
「それでも服は趣味なんですね。」
派手な服装が趣味という部分のほうが気になって仕方がなかったわ。
「ここでは内緒だけどね♪」
こっそりと耳打ちした美咲さんが私の手をとって歩きだす。
「ついて来て。どうしてギルドに来たのか話を聞いてあげるわ。」
私と知り合いだからかな?
話を聞いてくれるみたい。
どこかへ私を連れて行こうとする美咲さんと一緒にギルドの中を歩くことになったわ。
…それはまあ、良いんだけどね。
それよりも美咲さんの仕事は良いのかな?
「受付に戻らなくて良いんですか?」
「他にもいるから大丈夫よ。」
…そういうものなの?
何かが違うような気がするんだけど。
あっさりと答えた美咲さんは、
そのまま歩みを進めてしまうのよね〜。
…まあ、いっか。
本人が良いって言ってるんだから気にするだけ無駄よね?
とりあえずは、まあ、あれよ。
美咲さんは奈々香の前だけだって言ってたけれど。
多分そうじゃないんじゃないかな。
きっと美咲さんは心を許した人には強引に接する人なんじゃないかなって思うのよね。
むしろこっちの性格が本当で、
ここでの性格は仕事の上での猫かぶりなんじゃないかな?
普段は自己中心で、仕事はおしとやか。
それが美咲さんなんだと思う。
性格の『二面性』ってやつね。
それはそれで良いと思うけれど。
その事実を知っているのはごく一部だけなのかも?
ほとんどの人は美咲さんをおしとやかな人だと思い込んでるのかもしれないわ。
そう考えると美咲さんも立派な魔女に思えてくる。
…魔性の女?
そんな感じ。
まあ、悪意はないと思うからそれも良いと思うけどね。
もしも悪意があったらタチが悪いけど。
そこはないと信じたい…なんて、
くだらないことを考えてる間にね。
控室と書かれた扉の前にたどり着いたのよ。




