私を超えるほどに
《サイド:冬月彩花》
………。
乃絵瑠は行ってしまったわね。
乃絵瑠の背中を見送りながら、
じっと眺める校門。
雨の中へと消えた乃絵瑠の姿は、
すぐに見えなくなってしまったわ。
乃絵瑠がどこへ向かったのかは分からないけれど。
無理に追い掛けようなんて思わない。
…あの子は望まないでしょうね。
そう思うから静かに見送ることにしたのよ。
悔し涙をこぼしていた乃絵瑠の旅立ちを静かに見送ることにしたの。
…あの子にはあの子の進むべき道があるわ。
…私が口出しすべきことじゃないのよ。
救いの手を差し伸べることが常に正しいとは限らない。
時には見送ってあげることも必要だと思うから。
だからこそ。
何も言わずに乃絵瑠の行動を見届けてから研究所に向かって歩きだそうとしたんだけど。
その途中で見覚えのある女性が駆け寄ってきたわ。
「ご苦労さまでした!」
大きな声で話し掛けてきたのは、
わざわざ暗黒迷宮の休憩室にまで私と乃絵瑠を呼び出しに来た研究所の職員よ。
彼女は笑顔を浮かべながら私に頭を下げたわ。
「みなさんのおかげで学園内の襲撃者は一掃出来ました。現在も調査は続いていますが、おそらく襲撃者もういないと思います。町の方も落ち着きを取り戻しつつあるようですし、混乱は無事に収まると思います。ひとまずこれでもう安全だとは思いますが、一応警戒だけは今後も続けていただけると嬉しいです。」
一方的に説明をしてから足早に走り去って行ったのよ。
…言いたいだけ言って立ち去るなんて、随分と礼儀を心得ているわね。
そんなふうに皮肉を込めながら後ろ姿を眺めたあとで、
今度こそ研究所に向かって歩きだす。
「乃絵瑠がどこへ行ったのかはともかくとして、他のみんなはどうしてるのかしら?」
矢島奈々香。
宮野あずさ。
雨音未来。
それぞれの迷宮に挑戦してから随分と時間が経過したはずよ。
…一度、様子を見た方が良さそうね。
乃絵瑠がいない研究所に向かって歩き続ける。
思うように成長出来ない自分自身を歎いて、
自信をなくして姿を消した乃絵瑠が何を求めてどこへ向かったのかは分からないけれど。
ひとまず今は待ち続けようと思うわ。
乃絵瑠が自分の意志で帰ってくるその時まで待ち続けるつもりでいるのよ。
…早く帰ってきなさい、乃絵瑠。
…私はあなたが帰ってくるまで待ち続けるわ。
「どんな成長をして戻って来るのかを…楽しみにしておくわね。」
呟いた声に返事は返って来ない。
それでもね。
想い続けているの。
…強くなりなさい、乃絵瑠。
…私を越えるほどに、ね。




