これから始まる戦い
《サイド:米倉宗一郎》
「由美。確かお前が率いていた部隊は全ての町に派遣していると言っていたな?」
「ええ。情報収集の為に各町に部隊を派遣したわ。ただ、本来の目的はウィッチクイーンの捜索だったから、今もそれぞれの町にとどまっているかどうかは分からないけどね。」
…ふむ。
「それでも連絡を取り合う程度のことはしているだろう。」
例え捜索が目的だったとしても、
各町を拠点として活動しているはずだからな。
「現在の状況は不明だとしても、各町の防衛力は増しているはずだ。だとすれば竜の牙はまだ何とかなるかもしれない。」
「…だと良いけどね。」
由美は不安を感じさせる表情を見せているが…それも当然か。
ジェノス同様に各町が襲われているとすれば、
当然カリーナも戦場となっているはずだからな。
ここと同じように学園が襲撃されている可能性は十分に高い。
そしてそれはもちろんマールグリナも同様だ。
「カリーナとマールグリナの町も竜の牙による襲撃を受けているかもしれんな。」
「いえ…それはどうでしょうか?」
マールグリナも襲撃を受けている可能性を考えてみたのだが、
重郎の考えは異なっているようだ。
「他の町に関しては何とも言えませんが…。
マールグリナに関しては襲撃の心配はないと思います。すでにマールグリナは昨日の時点で襲撃を受けて撃退に成功していますので、仮に竜の牙が攻め込んでくるとしても少数かと思われます。ですので…桜井さんの部隊が到着していると仮定すれば防衛はたやすいかと思われます。」
…なるほどな。
確かにその意見は納得出来る。
…いや。
場合によっては逆かもしれないな。
マールグリナだけは安全というわけではなく、
マールグリナの制圧に失敗したからこそ、
一斉蜂起という暴挙に出たのかもしれない。
もしもマールグリナの制圧に成功していれば、
町の解放という条件をもとに俺に秘宝を差し出すように交渉するつもりだったのだろう。
だがマールグリナの制圧に失敗したために、
共和国全土で暴動を起こしたと考えるべきだ。
最終的に俺から秘宝を引き出せれば、
竜の牙の思惑は成立するわけだからな。
おそらくこの推測は外れていないだろう。
…とは言え。
考えるべき問題はまだ幾つもある。
わざわざ役場にまで足を運んでくれた重郎からマールグリナでの出来事は全て聞いているからな。
朱鷺田や三倉等の実力者が倒れたことは悔やまれるが、
多くの仲間の犠牲と引き換えにマールグリナは守られた。
そしてその戦闘の影にはウィッチクイーンが関わっていたらしい。
アストリアの国境に姿を現し。
マールグリナへ立ち寄り。
ジェノスにたどり着いたはずのウィッチクイーンが何を目的として何を企んでいるのかは不明だが、
すでにこの町で何らかの行動を起こしているはずだ。
「竜の牙とウィッチクイーンか。」
厄介な出来事が続くな…と、
呟いた直後に御堂君が話しかけてきた。
「あの…。お伝えしたいことがあるのですが…。」
「ん?どうした?」
「その…。ウィッチクイーンという人と数時間前に商店街で出会いました。」
…なにっ!?
予想していなかった発言だった。
御堂君の報告を聞いて驚く俺と同様に、
由美と重郎も御堂君に驚きの眼差しを向けている。
「ウィッチクイーンと出会ったのですか!?」
「何があったの!?」
「えっと…。」
慌てて問い掛ける重郎と由美に、
御堂君はその時の出来事を思い出しながら答えてくれた。
「僕もまだ状況を理解出来ていないのですが、彼女は天城総魔の使者だと言っていました。総魔が残した希望を導く為に僕を探していたそうです。」
…天城総魔だと?
…どういうことだ?
御堂君の話を聞いて、彼の顔を思い出してみる。
『天城総魔』
彼は俺にとって親友と呼ぶべき男の息子であり、
天城の名を継ぐ最後の一人だ。
一週間ほど前に、
共和国の最初の町『グランバニア』で俺達は出会った。
グランパレスで行われた学園対抗の魔術大会。
その会場において天城総魔と出会ったのだ。
そして短い時間だが天城総魔と話をした。
彼はアストリア王国への復讐を誓い。
両親を殺された怨みを晴らす為に、
戦争に参加すると宣言していた。
その結果として。
彼の活躍によってアストリア王国からの侵略を防ぐことが出来たことを俺も知っている。
御堂君から戦争の話を聞いたからな。
だからこそ。
おおよその出来事は把握しているつもりだったのだが、
天城総魔が残した希望という言葉の意味は全く分からない。
…どういう意味だ?
ウィッチクイーンはマールグリナにおいても栗原薫と接触して同様の発言をしていることを重郎から聞いている。
どうしてなのかは分からないが、
ウィッチクイーンは栗原薫と御堂龍馬に接触したようだ。
何かを知り、
何かを伝える為に。
共和国を暗躍しているらしい。
「ウィッチクイーンはきみに何を?」
「これから始まる戦いに僕を導いて、僕に託された希望を見届けると言っていました。」
…これから始まる戦い?
その言葉が示す意味とは、
つまりは今の状況ということなのか?
…ということは、だ。
ウィッチクイーンは現在の戦闘が起こる可能性に気付いていたのか?
…いや。
あるいは知っていたと考えるべきか。
何の意味も持たずに共和国に侵入してくるはずがない。
おそらくは全てを知ったうえで動いていると考えるべきだ。
「クイーンは他にも何か言っていたか?」
「あ、はい。あとは…。」
説明に迷う様子の御堂君だが、
それでも思い出せる限りの全てを語ってくれた。




