情報の伝達
「ご無事でなによりです。」
まずは挨拶をしてから、
米倉宗一郎に情報を流すことにする。
「幾つか報告したいことがあるんですが、聞いて頂いてもよろしいですか?」
「ああ、今なら時間はあるからな。話を聞こう。」
控えめに願う俺に米倉宗一郎は快く頷いてくれていた。
これでも一応、米倉宗一郎と俺は半年近い付き合いがあるからな。
本来なら身を潜めたまま米倉宗一郎の調査を行うのが俺の役目だったんだが、
本来の役目とは別のことに心を奪われてしまったせいで顔見知りになってしまったからだ。
まあ、それはつまり半年ほど前に翔子と出逢ったことがきっかけなんだが、
たまたま翔子に出逢った俺は一目で翔子に惚れ込んでしまった。
そして常盤沙織の誘いによって特風に加わっていた翔子を追い求めて、
俺も特風に参加することを目指すことにしたんだ。
その結果として米倉美由紀を通して、
米倉宗一郎から何度か依頼を受けたこともある。
まあ、依頼の内容は町の治安維持だが、
直接話し合う機会は何度もあったからな。
よほどの緊急事態でもない限りは俺の報告を真剣に聞き入れてくれる関係にはなっている。
もちろんこの関係は姉貴が知ったら激怒しかねない話なんだが、
特風の一員として行動する以上は避けられない事態だからな。
顔見知りになったのは仕方がないと思ってもらうしかない。
…とは言っても。
その辺りの事情はまだ姉貴には話していない。
女に惚れ込んで姿を現す密偵なんてありえないからな。
それに姉貴が事実を知ったら何を言いだすか分からない。
下手にもめるのが面倒で今も隠しているんだが、
それでもいつかはバレるだろう。
…とまあ。
立場的に馬鹿なことをしでかしたおかげで米倉宗一郎の信頼を勝ち得たわけだが、
色々な意味で厄介な状況なのは間違いない。
とりあえずは姉貴と米倉宗一郎の間に立って、
上手く立ち回るしかないと思っている。
「それではまず一つ目の報告なのですが、この学園を襲っているのは竜の牙という名の部隊のようです。」
あくまでも俺は何も知らないというフリをしながら話を進めていく。
御堂達でさえ把握しきれていないような情報を俺が知っているとなると不自然だからな。
知らないフリをしておくのが一番無難だ。
…とは言え。
この情報に関してはほぼ全員が理解しているはずだ。
それを証明するかのように誰一人として驚いた様子を見せていないからな。
この程度の報告で俺の立場が揺らぐことはないだろう。
…まあ。
里沙と百花の場合は何も知らないから反応が薄いんだろうけどな。
…ひとまず。
理解が追い付かない二人にはもうしばらく黙っていてもらうことにした。
小さく首を傾げている様子の里沙と百花だが、
ここで二人に詳しい説明をすると俺が怪しまれるからな。
詳細は避けたほうが無難だ。
今は米倉宗一郎に報告を続ける。
「襲撃者を締め上げて情報を聞き出したところ、竜の牙を名乗る部隊は共和国の全ての町で一斉蜂起したそうです。」
「何だとっ!!!」
俺の報告を聞いた米倉宗一郎の表情が一変した。
だがそれは当然の反応であり、
俺にとっては予定通りでもある。
各町が襲われているという報告で戸惑う様子の米倉宗一郎だが、
動揺しているのは御堂や黒柳達も同じようだ。
その辺りの反応を確認したあとで、
再び報告を再開することにした。
「ジェノスだけではなくて、32の町の全てにおいて暴動を起こしたようです。」
「それは事実なのか!?」
「事実関係は不明です。あくまでもそういう情報を得ただけですので…。」
実際に暴動が起きているかどうかは分からないとしか言えない。
それに、だ。
本当に全ての町が襲われているのかどうかなんて分かるわけがない。
姉貴の情報を疑うつもりはないが、
誰も確認していない話だからな。
もしかすると竜の牙が大人しく撤退したという可能性もありえると思う。
「もう少し捕虜を増やせれば確認が取れるとは思いますが…」
「………。」
控え目に答える俺から視線を外した米倉宗一郎は、
周囲に倒れている竜の牙達へと視線を向けてから溜息を吐いていた。
「手加減なしで攻撃したからな。生存は望めんか…。」
竜の牙を全滅させたことを悔やんでいる様子だが、
まだここで足を止めてもらうわけにはいかない。
米倉宗一郎にはやってもらわなければいけないことがあるからな。
そのために、続けてもう一つの事実を告げることにする。
「それともう一つ…。」
報告を続ける俺に全員の視線が集まるが、
あと少しで当面の役目は果たすことができるはずだ。
さっさと報告を終えてしまおう。
「セルビナが侵攻を再開したようです。」
「なにっ!!!」
焦りを浮かべる米倉宗一郎だが、
それ以上に桜井由美が戸惑っている様子だった。
「本当なのっ!?」
米倉宗一郎の横を通り過ぎて俺に駆け寄ってくる。
必死の表情だ。
その表情の意味を俺は知っている。
姉貴から託された書類を確認しているからだ。
ミッドガルムとセルビナは共和国に停戦を申し込んで軍を下げたらしい。
それにより戦争は終結したそうだ。
そしてその報告の為に軍の幹部がジェノスに来ているはずだという情報は書類に記されていたが、
詳細に関しては不明とも書かれていた。
おそらくは姉貴も誰が来るかまでは知らなかったのだろう。
だがここに桜井由美がいることを考えれば全てが繋がる。
「戦争の終結を報告に来たんですか?」
「え、ええ…そうよ。」
あえて確認する俺に桜井由美は頷いてくれた。
…なるほどな。
…やっぱりそうか。
これでおおよその流れが理解できた。
あとは素知らぬふりをして報告を続けていくだけだ。
「セルビナ軍は停戦の協定を破棄して共和国に攻め込んでいるそうです。こちらに関しても事実は不明ですが、捕獲した竜の牙からそう聞きました。」
あくまでも何も知らないという立場は崩さない。
手に入れた情報を伝えているだけだと思ってもらわなければいけないからな。
「詳しい状況は不明ですが、全くの虚偽ということはないと思います。」
「きみとしてはどの程度の信憑性だと考えている?」
「…分かりません。竜の牙の規模もセルビナの行動も俺は何も知りませんから。」
余計なことは何も言わない。
そのために分からないフリを続けるしかない。
「詳細は分かりませんが、事実確認を急ぐべきかと思います。」
「………。」
あくまでも米倉宗一郎の判断を待つ。
俺に出来るのはここまでだ。
これ以上踏み込めば、
どこかで俺の行動を不審に思う者が出てくるかもしれないからな。
情報だけ伝えて身を引くのが最善策になる。
「…ふむ。」
全員の視線を集める米倉宗一郎は、
しばらく考え込んでから桜井由美に問い掛けようとしていた。




