イクシオン
一歩前に歩み出る宗一郎さんの見た目は落ち着いた雰囲気だ。
慌てるようなそぶりは一切見せていない。
…どうするつもりなのだろうか?
「宗一郎さん?」
「まあ、待て。」
宗一郎さんはルーンを生み出してから冷静に検定会場へと視線を向けている。
轟々と激しく燃え上がる炎は、
着々とその範囲を広げているようだ。
…このままだとまずいぞっ!
…早く炎を消さなければ内部にまで被害がっ!!
天井が崩落すれば内部の民間人も巻き込まれてしまうことになる。
それなのに。
危険が分かっていても動けない状況だった。
ここで結界を解除すれば、
竜の牙達は再び攻撃を再開するだろう。
だとしたら今は竜の牙の殲滅が先だろうか?
方針を変えて駆け出そうとしたのだが。
その前に宗一郎さんが魔術を展開しようとしていた。
「ダイダルウェーブ!!!」
掲げた槍の先端から激しい津波が放たれて、
会場を覆う炎に襲い掛かっていく。
炎と激突する水流だ。
その勢いによって炎は瞬く間に鎮火してくれた。
「例え病に侵されて肉体的に衰えようとも、魔術が使えなくなったわけではないからな。この程度の魔術であればたやすいことだ。」
冷静に告げる宗一郎さんだが、
これは決して簡単な魔術ではないはずだ。
何故なら、先ほどの魔術を習得している魔術師はほとんどいないからな。
おそらくこの学園において、
さきほどの魔術を習得しているのは宗一郎さんと常盤沙織の二人だけだろう。
俺や美由紀でさえも扱いきれない魔術だからだ。
『水属性最強の魔術』
膨大な津波によって全てを流し去る最上級魔術なのだが、
攻撃力という意味では他の属性に劣る。
単純な威力よりも水死や圧死などの効果を秘めて、
相手の動きを封じて遠ざけるといった攻撃と防御を兼ね備えた魔術だからな。
その特殊性によって使用出来る魔術師はほとんどいない。
最上級魔術の中でも特に高等な魔術だからだ。
だがそれでも宗一郎さんにとっては大した労力ではないらしい。
魔術を使用した直後にも関わらず、
更なる魔術を展開しようとしているのが見えた。
「…一つだけ言っておこうか。」
宗一郎さんが竜の牙達に睨みを効かせる。
「竜の牙達よ。あまり俺をナメるな!!」
強気な態度で発動させる魔術は宗一郎さんが最も得意とする魔術であり、
『雷属性』最強の極大魔術だった。
「イクシオンっ!!!!」
激しく帯電するルーンから、
絶望さえ感じるほどの破壊が放たれる。
「全てを破壊する!!!」
宣言した直後に空から降り注ぐのは幾千もの雷だ。
その一撃だけを見ても、
即死級の破壊力が有るだろう。
爆音を響かせながら圧倒的な破壊を巻き起こして降り注ぐ雷を受けた竜の牙達は、
悲鳴すらあげられないまま全滅してしまっていた。




